誰か上手い人が、「(小太郎さんの)ホームページをやってあげるよ」なんて人が現れたら、ありがたいんですけどね。
― 小太郎さんは、ご自分のホームページをお持ちではないですね
ないです。師匠も喬太郎兄(※)もやってませんし、(その手の宣伝。自己PR活動が)上手い人は、上手に使えばすごい武器になることはわかっているんですけど。そういうのが下手な、自分みたいな人間が、それを見よう見真似でやったところで、プラスになるとは思えない。だったら、自分の得意なことをやった方がいいんじゃないかなと思っています。誰か上手い人が、「(小太郎さんの)ホームページをやってあげるよ」なんて人が現れたら、ありがたいんですけどね。(その手のことが下手な)自分でやるより絶対いいですし。自分だと、酔っぱらってツイッターに恥ずかしい投稿して、ネット上に残したりしそうですから。嫌ですからね。実際、そうなりそうだし(笑)。
※ 柳家喬太郎:非凡な創作力と演出力を誇る、新作落語も古典落語のどちらも非常に高いレベルでこなす落語界の若き柱。2009年文藝春秋社のムック本「今おもしろい落語家ベスト50」では、柳家小三治、立川談春、立川志の輔などのそうそうたるメンバーを抑え、堂々の1位に輝いたほど。愛称はキョンキョン。
― ちなみに、ガラケーですか?
ガラケーです。根付は河童です。※ちなみに、編集者の一人の妖怪根付は「道成寺鐘(どうじょうじのかね)」
― 新作について教えてください。小太郎さんの改作(「しげる(小太郎オリジナル 妖怪版寿限無)」)を拝見したことはあるのですが、新作はまだ経験がありません。以前は、新作(「妖怪家主」「みなくじ様」等)をやってらっしゃったようですが、新作はいくつくらいお持ちなのでしょうか。意識して増やそうと思っている/いない、どちらでしょうか。また、「百物語」は小太郎さんオリジナル(改作?新作?)になるのでしょうか。
基本、作らないです。例で挙げて頂いたネタが、そうなんですけど「しげる」も「百物語」も今、活動休止状態の『妖怪倶楽部(※)』でできた噺です。その会では全部妖怪だけのことをやろうと。でも妖怪だけが出て来る古典もそうありません。ましてや、前座の時は、好きなネタを好きな時に教わりに行けるわけじゃないですし。「じゃあ(新しい噺を)作ろう!」と。ですので、『妖怪倶楽部』のときは、毎回妖怪がテーマの新作を作っていました。逆に『妖怪倶楽部』以外で新作をやったことは、ほとんどないです。数えるほどしかないです。
※ 『妖怪倶楽部』:『落語界の妖怪好きによる、妖怪好きのための落語会』がキャッチフレーズの落語会。出演者:柳家小太郎、翁家和助、柳家ほたる、ザシキワラシーズ。
― 今でも要望があれば書きますか?
いやいや全然。できるくらいなら、とっくにやってますよ(苦笑)。自分はやはり新作を作る才能、新作を作る情熱が、そこまでないんでしょうね。今、小辰と一緒にやってる会は、そのせいで新作やってますよ。先日やったのは「お菊の死(※)」っていう噺(笑)。作らざるをえなきゃ、作ってみますけど、古典ほどしっかりしたものは自分にはなかなかできないです。いつか(しっかりした新作を)作りたいですけどね。一席か二席そういうネタが欲しいとは思います。
※ 「お菊の死」:小太郎さんと小辰さんの二人会「コタコタ」での新作。持ちネタを掛け合わせて新作を、という縛りで生まれた。「お菊の皿」×「豊志賀の死」=「お菊の死」。ちなみに、そのとき小辰さんのネタは「紫檀楼古木」×「按摩の炬燵」=「按摩の古木」。
― 「百物語」は完全に新作なんですか?
はい。あの噺、元は(古典落語の)「饅頭怖い」なんですよ。みんなで集まって怖い話をして、最後に誰かがカウンター(決定的な一言)を言うっていう。あれを怖い話でやってみようと思い立ったのです。そうしたら、あの形に落ちついたんですね。なので、ネタ下しのときとは、全然違う形になっています。スタイルは一緒ですけど、怖い話とか、くすぐりは全然違います。いっぱいやっていく、新作の方も一発でできるんじゃなくてあれを古典みたいにやり続ける情熱みたいなので動いていくという、「百物語」っていうのは数少ない残ったネタですね。
※ 「饅頭怖い」:まんじゅうこわい。若者数名が集まって、自分の嫌いなもの・怖いものを言いあいだした。蜘蛛に蛇に蟻など。だが、ただ一人、「俺は世の中に怖いものなどない」という男がいて…。
― (「百物語」というは)今後も成長する、変わっていく…
そうですね。怖い話を換えれば、いくらでも(バージョンアップ)できますしね。今後も、いろいろと変えていきたいなと思っています。
師匠ともビビビ。妖怪との出会いもビビビ。
― 小太郎さんの妖怪好きはいつごろ、何がきかっけでしょうか。教えてください。
「(ゲゲゲの)鬼太郎」からですね。(テレビアニメ放映シリーズの)第三シーズンです。夢子ちゃんが登場するシリーズですね。私が幼稚園に入るかどうかの頃だったですね。即、はまりましたよ。うちの師匠とのことじゃないですけど、まさにビビビですよ。(テレビ見て)すぐ、「あれ買って!」「これ買って!」で親にねだって。妖怪図鑑とか、いっぱい買ってもらって、暗記するくらい読んで。それからずっと好きですね。
― 落語に怖い話(怪談ネタ)があると知ったのも、噺家さんになってからですか?
なんとなく(そういうのがあるのは)イメージで持ってたかも知れません。(落語のネタに)怪談があるというのはわかっていたんだと思います。
― もっとも好きな妖怪を教えてください。ひとつでも、BEST5でも構いません。
わははははは!これねー、(事前に質問を見せてもらった時から)悩んでるんですけどね。お応えしますとね。これってすごい、賄い飯みたいな(裏メニュー的な、マニアックな)内容で申し訳ないんですけど、「百鬼夜行絵巻(ひゃっきやこう えまき)※」ってあるじゃないですか、その中に出てくる妖怪が好きです。
で、みんな名前がない、ほとんどが器物の妖怪たちが中心で、古い器物たちに魂が宿って、付喪神(つくもがみ)となって動き出すという、そんなのがズラ~っと並んでるだけで、現代で言うような妖怪図鑑みたいなもんじゃないんですけど。そんなかに一体気になる妖怪がいるんです。真っ白な布を被っていて、手と足だけ見えてるというやつ。なんか、もじゃもじゃの爪のある獣の手と足が生えている、それだけなんですけど、それがすごく好きです。いかにも妖怪っぽくて。
― 名前のある妖怪だと?
名前がある妖怪は何が好きなんだろう。「しょうけら(※)」とか、「おとろし(※)」とか。「片耳豚(かたきらうわ※)」とか、かなあ。
※ 「百鬼夜行絵巻」:妖怪たちが行列をする「百鬼夜行」(ひゃっきやぎょう、ひゃっきやこう)のさまを描いたとされる複数の絵巻物の総称。室町時代から明治・大正年間頃まで数多く制作されている。
※ 「しょうけら」:庚申待の日などに人間が正しい生活を送っているかを監視する、鋭い爪の妖怪。
※ 「おとろし」:おどろおどろ、恐ろしいといった言葉が妖怪化したと言われる妖怪。
※ 「片耳豚(かたきらうわ)」:鹿児島県奄美大島に伝わるブタの妖怪。名前通り片耳の無いブタの姿をしている。
(毎月の勉強会はこれまでに)80回以上はやってるんじゃないですか。
― (毎月の勉強会)「小太郎のとうとうひとり」ですが、いつ頃から始めた会なのでしょうか?
わかんないです。二つ目になってから、すぐ始めてますね。(二つ目の)披露目の最中はやらないと思うので。それ以降、たぶん、その年のうちには始めてるんじゃないでしょうか。
― はじめてから一回も欠かしたことないのでは?
いやいや、ちょくちょく欠かしてます。「妖怪倶楽部」を開催していた頃は、その月は休んでいました。噺を作るのが結構大変で。一方でそれをやっていると、勉強会でネタおろしができなくなっちゃうんで。そういう意味では、緩くやろうと。
二つ目になってすぐの時に、先輩たちに聴いていたら、「協会の二階でもいいし、いつでもいいし、とにかく(自分の会、勉強会、ネタおろしの会は)やったほうがいい、すぐやった方がいい」と言われまして。根が素直なもんですから、ただそれだけで始めた感じですね。
― そうすると今第何回なんですか?
まったくわからないです。年に10回以上やっていると思いますから。80回以上はやってるんじゃないでしょうか。
― 「この日にこのネタをやったよ」という記録は残すわけですか?
二つ目になって2年3年は何も記録してませんでしたが、その後はしっかり記録しています。
― 以前、「とうとうひとり」で「甲府ぃ(※)」を、「ちょうどよい(噺)ですね」と仰ってました
最初は、そんなに好きな噺じゃありませんでした。「変わったネタだな」って思ってました。味覚が大人になってきて、くどくないものも美味しいなと思えるようになりましたね。人情噺すぎず、ドカンドカンといった笑いが入っているわけでもなく、展開がすごいドラマチックなわけでもなく、ちょうど良い塩梅の噺だなと。一言で言えば豆腐屋の噺じゃないですか。まさに豆腐みたいな噺ですよ。くどくない、不味いわけでもない。ラーメンやカレーみたいな、はっきりとしたババーンみたいな味、感じではなく、豆腐みたいな噺だから、こりゃちょうどいいなって。そういう感じで気軽に言っただけのことです。
※ 「甲府ぃ」:こうふぃ。甲府育ちの善吉。江戸に出てきて空腹の余り、とある豆腐屋の店先でオカラを盗み喰い。すると…。人情噺の大ネタ。
― 最近おろしたネタにはなにがありますか?
自分で作った「お菊の死」と、あとは「茶の湯(※)」ですかね。喬之助兄さんから教わりました。教わったけど、まだやってないって噺もありますね。一対一で教わるだけじゃなしに、一門でついでに教わる機会もあります。割と教わったけど、眠らせてるネタはいっぱいありますね。まだ自分的には早いかもなとか、他のネタを演ってるうちに、程よくなってきて、「よしやってみよう」と思うこともあります。(くがらくという)この会は10月ですよね。そのころにはまた違うネタやってると思いますね。
※ 「茶の湯」:根岸の隠居。のんびり暮らしているが、暇で退屈。知ったかぶりして、小僧と二人で茶道を始めるが…。
― 今何席くらいお持ちですか?
これも、さっきの(質問)と同じで、貯金いくら?みたいな話なので、企業秘密です。ただ、自分はロス率が高いんですよ。あ、これだめだなって思ったらパッと。見切りが早い。でも、しばらくしたら掘り起こすタイプで。とにかく一席でも多く。今は質より量ですよ。
チラシ掲載の文章は、インタビュー記録からの抜粋です。全文は、ここでしか読めません。ぜひ、読んで感じて知ってください。小太郎さんの素顔。そして本音。
柳家小太郎 独占インタビュー(5)