芸人仲間からは、わかりにくい人間だと言われます(笑)

柳亭小痴楽@くがらく

― ご自身の持ち味はなんだと思いますか?

 基本、とにかく明るい。それと自分で自分を客観的に見て、いっちばんわかりやすい人間だと思ってたんです。

― 違いますよね(笑)

 ですよねー(笑)。みんな、違うっていうんですよ。わかりにくいって。昇也さんには「(わかりにくいから)兄さんの教科書がほしい」って言われます。「『教科書ください』って言うと、たいていの人は“ここだけ守ってね”っていうのがすらすら出てくる。でも、兄さんに『教科書ください』って言うと、頭ん中に、ぶわぁ~っていっぱいのルールが飛び出してくるでしょ。そういうこと」と言われたり。いやぁ、昇也さん(春風亭昇也)、宮治さん(桂宮冶)は本当に僕の人生の先生ですね(苦笑)。

 (持ち味と言うか、自分の良さという意味では)まぁ、裏切らないよってことですかね。一度仲間になったら、決して嫌わない、裏切らない。大切にします、という。

― セルフマネジメントが苦手なタイプという点について。

 すっごい苦手ですね。写真とプロフィール送ってくださいと言うお客様(主催者)からのお願いもすっかり忘れていたり、適当にそのへんにある自分の写真送ったりとか(笑)。すっごいいい加減なので。

― 小痴楽さんはものすごく多面体なんだと思いますね。

 まだ自分がよくわからないなぁ。

― 実は、今回の取材も、とてもドキドキして緊張して臨んでいます。

 他の取材記者の人も言ってましたね。いろんなことを質問する上で、触れちゃいけない部分に触れて、地雷を踏んでしまって、怒られるんじゃないかとか。

― ピュアで、ナイーブで、まっすぐで。

 (まっすぐと言っても)子どものときほど熱くないしなぁ。嫌な意味で大人になってきちゃいましたね。

― ご自分でブレイクしかかってるなと言う手ごたえは感じていますか?

 去年の夏くらいから取材が増え始めました。その後、NHK(NHK新人落語大賞)があって、「東京かわら版」さんや、テレビにも取り上げていただいたりして。いまも取材が続いていたり、ありがたいお話もいくつか頂戴していますが、その反応があるとすれば、2016年の後半だろうなと思っています。ただ、そんなに甘い世界ではないですから、油断はしたくない。今年、人目に付くように頑張れなければ(高座数・露出が増やせなければ)、次のチャンスは10年後、あと10年待つしかないだろうな位には考えています。

 NHKの本選。インタビューで「ここだけは、他の人に勝てる!という点を教えてください」って質問があったんですが、僕の応えは「どの角度から、どう分析しても、どこも勝てる要素がない。秀でているところがない」でした。そのくらい、僕は自分に自信がないんです。取材の人もびっくりしてまして。「一見、大変な自信家に見えます」って言われて。聞かれて聞かれて、最後に出た、ひねりだしたのが「若さ」。「みんなよりも若いってことだけですかね」って。

 きれいさ、口調、技術。佐ん吉兄さんに勝てるわけない。古典をおもしろく演じる点ではべ瓶兄さんに勝てない。古典のアレンジ力では昇々さんに勝てない。創作落語の感性では鯉八さんに適わない。僕に勝てる要素はないな、と。

― 見てる風景、立ち位置がとても高いんだと思いますね。小痴楽さんは。

 完璧主義な面は確かにありますね。

― NHKの本選は、小痴楽さんが優勝してもおかしくないと思ってみていました。

 ありがとうございます。その現場にいた僕からすると優勝は鯉八さんかと感じていました。あの空気の変え方、持っていき方は凄まじかった。佐ん吉兄さんも素晴らしかったですけど、僕の中では鯉八さん。僕の2位も、彼がつくってくれた空気のおかげですよ。

※ 平成27年度 NHK新人落語大賞。東西の新人落語家106人の中から、本選に進んだのは、笑福亭べ瓶桂佐ん吉瀧川鯉八・柳亭小痴楽・春風亭昇々の5名。小痴楽さんは堂々の2位。1位の佐ん吉さんとは、わずか1ポイント差でした。

― 上方との交流も盛んですよね。

 僕らの交流は、もともとは円楽師匠プロデュースの「博多・天神落語まつり」です。師匠方に僕ら東京組の若手と上方の若手が、それぞれ付き人として付いてきていて、自分らと同期世代の落語家と中々会う機会がないんで、何かやりたいよねと。それでまず大阪の天満天神繁昌亭に橘也(三遊亭橘也)・小痴楽・昇也(春風亭昇也)が行きまして。次に横浜にぎわい座で「東西交流落語会」を開きまして。今年もやります。本来は、協会も関係なく、東京・大阪のそれぞれ若手3人、合計6人での会にしたいんです。今のまま続けていって、定番化したいと思っています。

柳亭小痴楽@くがらく
柳亭小痴楽@くがらく
柳亭小痴楽@くがらく

早く結婚して、子供が欲しい。家族が欲しい。家族を持ちたい。

― 他にも、これからのビジョン、計画などありますか。

 そうですね。(うーん、と考え込む)

― 先ほども話に出た、独演会を年に4回やるとかですかね。

 そうですね。(うーん、と考え込む)

―  セルフプロデュースしてくれる方を探すとか。

そうですね。宮治さん(桂宮冶)とか上手いことやってんな、と思いますね。(そういう落語会開催を後援してくれる人たちを)どっから見つけて来るんだと。ただなぁ、そこを逃げて他の人の好意に甘えたくないという気持ちも強いです。いまのうちに、自分で苦手な部分を敢えてやって克服しておかないとだめだよな、という。

 例えば、売れました→マネジメントしてくれる事務所がつきました→全部任せます。やってもらいます→「こいつ、苦労してねぇな。苦労を知らねぇな」って思われるのが、これまた嫌なんですよ。癪に障る。だから「したよ!俺は苦労したよ!ちょっとだけかも知れないんだけど苦労したんだよ!」という実績(苦笑)が欲しい。今のうちに、その手の苦労はしておきたいですね。

― さすがは完璧主義者。

 いえいえ、欲張りなんですよ。できないくせに、理想が高くて、欲張り。ただ、2年間くらい、独演会をやってこなかったのは、僕の中で「勉強会」と「独演会」の差が付かなかったからなんですね。例えば勉強会は1500円。それでネタおろし1席+やりなれてるネタ2席。その日、やりたいネタを2席やります。しかも、下手したらネタおろししないときもある。合計3席。独演会は、それにゲストを足しただけで木戸銭は2000~2500円くらいになります。これは詐欺というか、納得できなくて、腹落ちしなくて。

 これは自分の中で「勉強会」と「独演会」の明確な線引きが必要だなと。今の時代「独演会」って銘打てば独演会になるんです。なるんですけども、違う。そんなんじゃない。「独演会をやるようになったんだね」ってくらい、重みと厚みがあるのが独演会。だとしたら、今の自分にはまだまだ分不相応だなと。

 だから今の僕には独演会は無理。自分主催は勉強会しか無理。他の主催者の人が“独演会”って打ってくれたのは自分で打ったわけじゃないから。それはそれで良い、ありがたいことだけれども、自主興行の独演会は無理。レベル的に。

 という気持ちでここ2年くらいいましたけれども、「逃げてたね俺」という気持ちが、ふつふつと湧いてきていまして。宮治さんからも「とにかく(自主興行の独演会を)やるの。やってから考えなよ、兄さん」って尻を叩かれまして(苦笑)。「わかりました、パパ!」って(苦笑)。

― よく、小痴楽さん眠れないって言ってますけども、わかりますね。ここまで、いろんな事を考えたり、悩んだりしている姿を知ると。そりゃぁ、頭の中、ギンギンで眠れなくなるでしょうね、と。

 習慣もあるんですよね。夜中の2時3時に親父を迎えに行ったりだとか、完全な夜型でもあるので。幼稚園の頃から(苦笑)。

― 小痴楽さんは、いわゆる「破滅型」の芸人さんでしょうか

 多分、その手の(芸人)だと思います。そういうことを、いっぱいやってきていると言う。ただ、芸人だからお金使う、芸人だから女遊びするっていうステレオタイプなのは嫌なんですよね。「芸人だから、こういう生き方。ではなく。こういう人間だから芸人になった」と思って欲しい。

 よくマクラで言うんですが。お酒を飲んで高座に上がると怒るお客さんがいる。呑んで仕事するとは何事だ!って。でもですね、そういうことを守れない人が芸人になってますからね、って。

 いつからでしょうね、芸人に品行方正さが求められるようになったのって。芸人なんてクズですよ、掃き溜めですよ。ちょっと前までは「落語家?ばーろー、クズじゃねーか」って時代でしたけどね。今は「落語家さん?すごい!」ってなっちゃって。恐らく、落語家が人間国宝に選ばれた辺りから、風向きが変わってきちゃったのかもなぁ、って感じます。

 人間国宝に選ばれた小さん師匠(五代目柳家小さん)、小三冶師匠(柳家小三冶)は確かに芸も人間性も素晴らしい方でしょう。でも、大勢いる落語家が全員人間国宝の対象になるほど出来が良いわけじゃないぞって(苦笑)

― 小痴楽流の美学が脈々と流れているわけですよね。

 そうですね。イコール、自分に甘いってことでもあるんです。自分に甘いから、そういうスタイルを「こうなんだ、これでいいんだ」って美学として位置づけちゃってる。そんな節もあります。

 その中でも、下(の落語家さん達)にお金を使うっていう(美学)のは、徹底しています。自分がしてもらってきたように、自分の弟弟子はもちろん、他の人の弟子、後輩にもお金は使います。ある人の弟子にお金を使うってことは、その人の兄さん・師匠に対する恩返し、お礼でもありますから。こういうお金の使い方に関しては彼女にも口出しさせません。

― 結婚願望はありますか?

 あります。ずっとあります。女遊びには興味はないですね。お金と時間をかけて遊ぶなら、男友達、仲間と遊びたい主義なので。(恋人は)決まった人が1人居ればそれでいいです。(結婚願望は)昔から持ってます。早く結婚して、子供が欲しいんです。家族が欲しい。家族を持ちたい。ただ、子どもを持ったからと言って特別ななにかをしたいってことでもありません。親父と同じようなことを自分の子どもにもするんでしょう。スパルタ教育だろうし、家にも帰らないだろうし、ザ・芸人な暮らしっぷりになるんだと思います。

― お子さんが落語家になりたいと言い出したら?

 止めませんが理由を聞きます。生半可な気持ちなら叱り飛ばします。僕が親父にされたように(笑)。僕も最初は「てめぇ、噺家を舐めてんのか!」でしたけど、「違うんだよ親父。実は柳枝師匠(八代目春風亭柳枝)の落語を聞いて…」って言ったら、親父の顔色が変わりましてね。「お?おう」ってなりましてね。で「これを読め」と渡されたのが談志師匠の『現代落語論(※)』ですよ。

 で読んだら内容がすごいじゃないですか。その後、「この人の落語を聴きたい」って言ったら(テープを取り出してきて)聞かせてくれましたしね。

 ところがですね、テープを聞いた後、「この人、口先だけだね、落語ができてないね」って生意気なことを言いまして当時の僕。怖いもの知らずでしたね。途端に「表に出なさい」と言われ、玄関前で木刀でボコボコにされました(苦笑)。「お前は何もわかってない。お前なんか死ねばいい。二度と落語やりたいなんて言うんじゃない。落語の“ら”の字も口に出すな」って(苦笑)。倒れながらも「それでも落語やりたい!」って伝えたところ、そこまで本気ならやってみろと。怖いんだか、親馬鹿なんだか(苦笑)

 二つ目に上がってから小遊三師匠にこの話しをしたところ、「お前は痴楽さんの倅でよかったな。その辺の前座だったら、俺がボコボコにしてるわ。うちらは談志信者なんだ馬鹿野郎」って。ここ2~3年ですかね。その談志師匠の良さ、偉大さが自分でわかってきたのが。

現代落語論:落語界の革命児であった立川談志が初めて書き下ろした落語論。この著作を超えるものはないといわれる名著。

― 早くお子さんを欲しい理由は

 うちの父親が倒れたのが僕が15歳のときでした。小さい頃から僕にとっても教育用ビデオは「男はつらいよ」や「仁義なき戦い」でした。「これを観て男を覚えなさい」と親父に観させられました。(そうやって親父に)男としての生き方は教えてもらいましたけど、倒れてしまってからは厳しさもなくなりますし、普通にしゃべるのもままならない状態でしたから、仕事人・噺家としては何も教わっていないようなものです。で、僕が21歳のときに死んでますから。あんだけ遊びまくって、家にもめったに帰らないで、(僕が噺家になった)いまこそ、いろんな噺を教えて欲しいし、アドバイスや叱咤激励も欲しい時なのに、なんだよ!と。ふざけんじゃねーぞ、親父!と。自分だけ楽しむだけ楽しんで、ふいっと逝っちゃって、どんだけ、こいつ無責任なんだよって。

 最近ものすごく感じるのは(この問題、親父だったらどうしたかな)(親父だったらどう考えたかな)ってことなんですよね。規範と言うか、基準と言うか。親父の背中、親父の影を追いかけちゃうんですよ。生きて居てくれさえいれば、いろいろ聞けたのになぁって。「親父どう思う?」「こうしたほうがイイんじゃねーか」「OK、ありがとう!」。そんな会話ができただろうなって。

 だから、僕も自分の子どもが30歳くらいに成長するまでは生きててあげたいなと。元気で自分の意見や考えを子どもに伝えることができるようでありたいなと。仮に30で子どもを持ったとすると、自分が30~40くらいのイケイケの時期の自分を見せることができるじゃないですか。自分が50~60になった頃には、30代とは違う自分も見せられる。その過程も伝えられる。「お前も30代から20年、30年も経つと、こんな風に丸くなるんだよ」とかね。

― もし女の子が授かったとしたら?

 それが怖い(笑)。強烈な親馬鹿になりますね。(悪い虫が付かないように)娘の後ろを刃物を持って歩くようになるかもしれません(爆笑)。男の子だったら野放しにします。自分で世間を学んで来い!って。でも女の子はねぇ(笑)。うちらみたいな馬鹿どもにどんなちょっかいされるかわからない。表に出したくなくなりますよね。自分は電車移動でいい。娘に運転手を付けたくなります。

 子どもが好きなので他人の子どもでもデレデレしちゃうんですよ。娘がいたら(甘やかし放題甘やかして)落語の「湯屋番」の女性版にしてしまいそうですね。昇也さん(春風亭昇也)とかすごいですよ。しょっちゅう「うちの娘(の写真)見る?見る?」って見せ付けてくるんですよ。「それ、こないだも見たわ!」ってーのに。毎回、生後から見されられるんですよ。勘弁して欲しいですよ。


チラシ掲載の文章は、インタビュー記録からの抜粋です。全文は、ここでしか読めません。ぜひ、読んで感じて知ってください。小痴楽さんの素顔。そして本音。

柳亭小痴楽 独占インタビュー(1)

柳亭小痴楽 独占インタビュー(2)

柳亭小痴楽 独占インタビュー(3)

柳亭小痴楽 独占インタビュー(4)

柳亭小痴楽 独占インタビュー(5)

柳亭小痴楽 独占インタビュー(6)

柳亭小痴楽 独占インタビュー(7)

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