シンキョウ(師匠)、センキョウ(師匠)、ナンキョウ(師匠)とか。語感がサンキョウと似てるから、みんな関係あるんだと思っていました。
― それでもめげずに!?
そうです。師匠からは、「君はもっといろんな人を見なさい」「君は落語知らないから、もし他の噺家を見て、その人の弟子になりたいと思ったら行っていいから」と、そう言われて、寄席に頻繁に見に行くようにしました。でも、こちらは、はなから「さん喬師匠の弟子になるぞ!」という思いで来ていますから。確かに他の人の落語は面白いんですけどね…。
それに噺家の名前だけじゃなく、噺家の系譜なども知りませんから、全然違う一門の人でも、師匠に名前が似てるから、(きっと、さん喬師匠となんか関係あるんだ。絶対に関係がある方に違いない)って勘違いしたシンパシーを持ったりしていました。シンキョウ(師匠)、センキョウ(師匠)、ナンキョウ(師匠)とか。ね!なんか語感が、サンキョウと似てるじゃないですか(笑)。
― ところで、最初に池袋で聴いたさん喬師匠の噺はなんですか?
「千両みかん(※)」。でした。すごい暑い時期、8月のことでした。
― どういったところが印象に残っていますか?
あまりゲラゲラする噺ではないですよね。そこが良かったんだと思います。感情が動いたから良かったんだと思います。ただもう笑うだけとか、泣くだけという噺じゃないですから、「千両みかん」って。この人がああなってこうなって、というドラマの中で、噺家が作りだした世界の中で、自分も同じジェットコースターに乗っているような、(物語に)起伏があったから、ときめいたんじゃないかと思います。今思えば「ビビビ!ときた」ってやつで、何がどうしたってわけじゃないんですけどね。
― そのビビビは、聞いてる途中から来ましたか?それとも見終って…
途中から(すげえな)って思いましたけど、そんときは、落語自体を初めて見て聞いたときですから、弟子になろう、噺家になろうと思っていたわけじゃないので。ただただ、この人をまた見に来たい。見に来よう、それだけでした。
― では、二回目に聞いた噺は?
「締込み(※)」でした。これもやっぱり面白くて。どっちも(師匠は)トリで出ていたわけじゃないんですよ。池袋なので(高座の時間としては)20分くらいだったんですよ。それでも、見てて、(わー)っとなって。
※ 「千両みかん」:日本橋のさる大店の若旦那が、みかんに恋煩い。病にかかってしまい、大騒動を…。
※ 「締込み(しめこみ)」:空き巣に入った泥棒。風呂敷に家の物を包み、背負って立ち去ろうとしたところに…。
今でも破門になる可能性、ありますから(苦笑)。そう思って暮らしてますよ、日々。
― 前座時代は、住み込みだったのでしょうか?
通いです。毎日師匠の家に通っていました。
― 「通う」って、例えば、どんなことするんでしょうか。
基本的には師匠とおかみさんのお手伝いです。家の中の掃除、片付け。着物の管理。あとは怒られる(苦笑)のが仕事みたいな。謝るのが仕事みたいな(笑)。でも、ほんと、よかったなあと思っています。
― どこが良かったですか。
仮に、師匠宅に行かない一門だったり、兄弟子がいない一門に入っていたら、今の自分はなかったと思うんです。きっと全然違う考え方で落語をやっていただろうなと思いますね。それくらい、師匠のところでの前座修業はカルチャーショックでした。毎日毎日いろいろなことで怒られたり、教えてもらったり。それまでが(大学時代~フリーター時代で)キリギリスみたいな(自由奔放な放蕩)生活をしていましたから(笑)。人として当たり前のことと言いますか、人間生活のリハビリと言いますか、いろいろなことを師匠とおかみさん、兄弟子たちに教えていただいたんで。本当にありがたかったです。ただ、とにかくバンバンにしくじってましたしね(笑)。弟弟子ができてからも、「お前がクビ候補ナンバーワンだ」と、一門の前で言われるくらい、それはもう、しくじり倒しでした。
― どんなしくじりですか?寝坊などですか?
寝坊も、もちろんありますし、二日酔いとか。楽屋働きの際、ある師匠にご迷惑かけてしまったことがありまして。私のしくじりに対して、師匠がそっと謝ってくれていたたりとか。そういうのは、ありがたいんじゃなくて、申し訳ないんですよね。(俺のために師匠に頭下げさせちゃった…)なわけですから。そういうのが一番多かったかなと思いますよ。
慌て者で、そそっかしいタイプなんですよ。私は。あれも!これも!って、パパパパって、やるんですけど、そういうのを「お先走り」って言いましてね。楽屋で結構嫌われるタイプなわけです。先にやろうやろうとし過ぎて空回りしていくという、そういうしくじりが多かったですね。
― そんなに悪いこと・ダメなことではないように感じますが。
いやー。“ほど”ですよ、何でもやっぱり。過ぎてりゃ、それは良くないことになりますよね。
― にしても、破門にならなくてよかったですね。
本当にそう思います。でも安心はしていられなくて。今でも破門になる可能性、ありますから(苦笑)。そう思って暮らしてますよ、日々。
自分より偉い人、自分より確実に怖いという人が、この世にいるっていうことは大事なことだなと思いますね。何かやろうと思った時、これが師匠やおかみさんにばれたら大変だという抑止力になりますからね。もともとが、そういうふにゃふにゃした人間だったので。そういうストッパーが多少できまして。多少というか確実に。
チラシ掲載の文章は、インタビュー記録からの抜粋です。全文は、ここでしか読めません。ぜひ、読んで感じて知ってください。小太郎さんの素顔。そして本音。
柳家小太郎 独占インタビュー(2)