「楽しく生きてないと嫌なので、いつでも超ポジティブ。大変なリア充野郎です(笑)」
― 考えが非常にロジカルですよね。昔からですか?ミュージシャン時代も?
音楽は27~8歳までやりました。でもね、僕、気づいてたんですよ。24歳くらいで。「あぁー、俺には音楽の才能ないな…」って。でもいったん自分で「音楽で一旗揚げるぞ!金を儲けるぞ!音楽で喰っていけるようになるぞ!」って決めていたんで、途中で夢半ばで止められませんでした。逃げるわけにはいかない!って思って。それで、どうやれば喰っていけるか、芸能ビジネスのしくみみたいのを掘り下げて考えたんですね。
― 音楽業界、エンタメ業界を分解・分析してみたんですね
はい。突き詰めて考えてみたんです。ラジオ局や番組や、ライブハウスといったものが、どういう仕組み、どういうシステムで成り立っているか、どうやってビジネスを成立させているかとか。そしたら、スポンサーさんて何て大切なんだとか、お客さん(市場)に受け入れられるためには、とかが見えてきて。
― 非常にクレバーです。まるで、マーケッターのようです。
なんてったって大学出身者ですからね(笑)。実際僕はアーティストじゃないです。ミュージシャンにはなれませんでしたし、決してアーティスティックな落語家ではないです。円丈の弟子はみんなロジカルだと思いますね。理論派だらけじゃないですか。白鳥兄さんしかり、天どん兄さん(※)しかり。
※ 三遊亭天どん(てんどん):四番弟子。新作落語と古典落語の両方に取り組む。とぼけた人柄、独特の雰囲気から醸し出される天どんワールドが人気。新作落語教室の講師をするなど知性派でもある。
― 昔からですか?
昔からです。この僕の性格。僕は一度も人生に悔いがない。超前向き、超ポジティブ人間です。小学校1年から学級委員、それも周りの推薦で。僕中心に世界が回っていると思っていたあの頃。若干、今でも僕中心に世界が回っていると思っているという(笑)。大変なリア充野郎でありまして(笑)。楽しく生きてないと嫌なので、楽しい環境づくりが上手いってことだけなんでしょうけど。日々充実してます。
今も、くがらくさんのこのインタビューを受けてる時間が楽しくて仕方がないですよ。事前に送っていただいた質問項目を読んだ時に「あぁ、こんなに僕のことを知ってくれている、見てくれている」と思ってうれしくなりましたし、「ここまで真面目に頑張って来てよかったな」って思っています。
― (わん丈さんのインタビュー記事が他にも沢山ある中で)他と同じ内容は、あまり載せても…と思っていますので。
ある上方の師匠が楽屋で取材を受けていたときがありまして。その際、「お土産持ってきました」って仰ってたんですね。ここで言う“お土産”ってのは、ここでしか話していない・ここで初めて話す話題・エピソード・記事のネタって意味です。それを傍で聞いていて(僕も、いつかインタビューを受けるようになったら、お土産持ってきましたって言おう)と思っていました。今日は今のところ、すてきなお土産渡せてませんけど(笑)
― 音楽業界に興味や未練はありませんか?
まったくないですね。今が一番楽しいです。あ、でも、今度、ライブハウスで落語やります。25~30分の持ち時間で。上京した時にルームシェアをしてた福岡時代のバンド仲間(対バン仲間)がいるんですけど、彼の紹介で。
僕、こないだNHKの「演芸図鑑(※)」に出させてもらったんですど、彼は彼で「バズリズム(バカリズム司会の音楽番組)」に出演したりして。同じ歳でお互い、ようやくここまで来たなと。で、そいつが「日本のことが好きな外国人バンドが来日する。なので、日本の魅力・日本の芸能として、同じ空間で落語やってほしい」とオファーされまして。まだ詳細は発表されていませんが、渋谷 の「Clubasia(クラブ・エイジア)」ってところです。今秋です。
※ 演芸図鑑:NHK総合テレビで放送されている演芸バラエティ番組。
― ネタの覚え方は?書きますか?
打ちます。師匠と同じでパソコンに打ちます。入力します。ハマる・ハマらないに関わらず、絶対に編集するので。入れたり出したり(セリフや構成を加えたり)するので、テキストデータになっている方が楽ですから。
音楽業界にハマらず、落語業界にハマった男。三遊亭わん丈。
― ホームページみるとスケジュールパンパンです。すごいお忙しいでしょう。
ホームページに掲載している予定の3倍4倍働いてます。学校寄席などは掲載していませんので。二つ目に昇進して最初の年は、丸々休んだのは2日しかなかったです。それくらい働きました。これからもっともっと働きます。稽古して働いて、稽古して働いて、です。僕はそれでいい。仕事しててナンボですのでね。
― 円丈師匠の教えに従って営業していないのに、ここまでオファーが来るというのは?
なんででしょうね、わかりません。大変ありがたいことですがわかりません。一つ言えるのは、落語という世界に僕がものすごく見事にハマった、合ってたってことかも知れません。すごく向いていたんでしょうね。向いてた話としては、先日、ある大学の臨時講師に招かれまして、そういうテーマで話をしました。落語をして、あとは自分の体験談を話すというのがありまして。後日、あのときの話がとても評判だというので、次は若い先生方に向けて講義をしてくれないかというオファーをいただいています。
― その評判が良かった内容とは?
大学2年生対象でした。今頑張っていることを頑張って続けるというのも大事ですが、そうじゃなく、「俺、ここまでかも」とか「もしかして向いてないのかも」と思った時に、諦めて別の道を模索するというのも大事だよという話をしました。僕が実際そうなので。音楽で喰っていこうと決めて頑張って、頑張って、滅茶苦茶頑張って努力したけどダメで。挫折したーってなって、次に落語家になって、でも苦労してないですもん僕。苦労に思えない。ミュージシャン時代と同じメンタルで頑張ってんのは頑張ってんでしょうけど、苦労とは思えない。それはなぜか。僕と落語は合ってるから。そうとしか思えないんですよ。誰にでも合う・合わないが存在する。合うものに会えるように探し続けるのも大事かも、というような話をしました。
「苦労は後から、いくらでも回収できます。」
それと、向いてなかったミューシャン時代が僕の人生において無駄だったか?というとそうじゃない。こうして向いてる世界に入った時に、すべて回収できるよ、って話もしました。成功も失敗も過去の経験は全て回収可能。元は取れます。お釣りがくるくらい。
なんていう話をしましたら、気に入っていただきまして。紆余曲折してきた人だからこそ語れる話だ!って感激していただきまして。これまで挫折してきてよかったなと(笑)。その挫折もこうして回収できたと言う(笑)。
ほんとに落語家に向いてたんですね僕は。ずっと体育会系で来たので、この世界の上下関係には抵抗ありませんし。
― どんなスポーツを?
いろいろやりました。小学校の時にサッカー、バスケ、高校はバトミントン。キックボクシングもやりましたし。どれもそこそこの好成績!なんですけど、どれも1位がない。たいてい2位とか3位。僕らしい(笑)。
― 滋賀のご出身です。距離的文化的には上方のお笑いが近かったと思います。同じ落語でも、上方落語へ進んで弟子入りしようとは思わなかったのですか?
まったくなかったです。芸能をやるにあたって東京に進出しない方がおかしいという考えです。上方落語は面白いですが、日本の頂点、センスのある人、実力のある人、トップが集まってくるのは東京ですよね。福岡で音楽しているときから感じていましたけど、東京と大阪をシンプルに東西って分けて言うけれども、マーケットとして捉えた時は同等じゃないよなって。文化や産業のレベルは同じでも、圧倒的に首都・東京の方が人口(マーケットのパイ)が上だろうって。
これから新しく、何を始めるに当たって、東京に来ない理由がないと僕は思います。何かやりたい、始めたいならまず東京だろうと。視野を広げる意味でも、東京は一回観ておかなきゃいけない場所だと思いますね。二番目にどの都市、どの地方に行ってもいいから、まず一度は東京を経験しておこうよと。
福岡や大阪でできることで、東京でできないことはありませんよね。福岡や大阪でできることは東京でもできる。でも、その逆はありえます。東京でしかできないことはたくさんある。そんな街で学んだり、勝負したいじゃないですか。
チラシ掲載の文章は、インタビュー記録からの抜粋です。全文は、ここでしか読めません。ぜひ、読んで感じて知ってください。わん丈さんの素顔。そして本音。
三遊亭わん丈 独占インタビュー(5)