「この世界(落語界・落語業界)に活かしてもらおうという人はダメ」
― 視点や語りが、エリートサラリーマンのようですが、サラリーマンなどの経験は?
ないんですよねーそれが。先日師匠が「偉そうなこと言ってるけど俺たち、実社会での経験がないからなー」って言ってて、“実社会”って言葉の響きが素敵だなーと思って聞いてました。僕は実社会での経験がありません。
― それにしては(これまでの連絡の)メールの返信が早い!できる営業マンの鉄則!という感じに早いです。
それは、よいしょするわけではありませんが、くがらくさんの送ってくれるメールが“返信しやすいメール”だからです。質問が的確。これは長く続いている落語会のお席亭さんみなさんに言えることです。兎に角、わかりやすいし、返事がしやすい。落語家のことをよく理解してくださっている方の文章ですもん。「返答にしくい!ええい、もう電話した方が早いや!」とはならないんですよ。はい・いいえで、答えて済むわけですからね。僕、メールもパソコンも得意じゃないんですが、それでもメールで返せますもんね。電話を使わず。噂によると、うちの一門は皆返事が早いらしいです。これもさっきと同じく白鳥兄さんしかり、天どん兄さんしかり。
― 一門と言えば将来、わん丈さんのところにも入門志願者さん、くるでしょうね。
来ますかねー。かみさんに言わせると「あなたのところに弟子入り志願に来る人は相当大変でしょうね」って(笑)。で僕が「そうかなぁ。一人も志願者が来ないってこともないだろうし、入門したらしたで、なんとか続くでしょ」って言ったら、「人間、そんなに馬鹿じゃないよ。ある程度生きてきた人間なら、あなたと数分しゃべれば、あなたがどんな(難しい)人間かわかるわよ」って返されちゃいました(笑)。
でも、かみさんの尻に敷かれてはいなんですよ。どっちかって言うと、亭主関白なほうですしね。娘もこき使いますし(笑)。奥さんと娘と、身の回りの世話をする弟子や助手が二人いる感じで生活しています。「パパ、ティッシュ欲しいなぁ、持ってきて」とかね。だからまだ小さな娘が良く歩くし良く喋ります(笑)
― 未来の落語界を支える後進も育てないと。
向いてない人は辞めた方がいい。この世界(落語界・落語業界)に活かしてもらおうという人はダメ。この世界が少しでも長く、そして少しでもよくなるように働きかけられる、この世界の一員になれる人じゃなきゃダメだと思っています。僕がそれを上手くできているかどうかはわかりませんが、少なくとも、そういう噺家になろうとは思っています。
音楽業界にハマらず、落語業界にハマった男。三遊亭わん丈。
― 高座を拝見しての感想です。はきはきとした口調、口跡。爽やかな華やかな高座。明るい落語。しゃべるのが大好きなのがわかりますし、「しゃべってないとしぬ病気(これは褒め言葉です)なのか!」と感じるくらい(笑)です。若手では(以前、くがらくに出ていただいた)春風亭昇也さんに匹敵するおしゃべり好きな印象を勝手に抱いております。正しいですか、間違っていますか。ご自分ではどう思われますか。
小辰兄さんに一度聞いたことがあります。「昇也兄さんと、僕の違いは?」って。そしたら「昇也さんはプロのおしゃべり。そして“我”がない。お前は“我”が強すぎる。わがままだ」って(笑)。昇也兄さんのことも尊敬しています。1年間、ラジオ(※)でご一緒させていただいて、お世話になりました。
※ 春風亭昇也(しゅんぷうていしょうや):第5回くがらく出演者。落語芸術協会の二ツ目で結成されたユニット「成金」のメンバー。2018年(平成30年)平成29年度 彩の国落語大賞受賞。春風亭昇太一門。
※ NHKラジオ第一放送の「日曜バラエティー」のこと。【司会】山田邦子、山下信。【レギュラー】コロコロトリオ(神田真紅、三遊亭わん丈、桂竹千代)。昇也さんは去年までレギュラー。
― 目標の落語家、憧れの落語家さんはいますか?
憧れというか、あそこまで登りつめたいという目標はいます。宮治兄さん(※)です。宮治兄さんの進む道の後ろと言うか下に居たいと思っています。恐らく、宮治兄さんのベクトルの先には一之輔師匠が居るんですね。今滅茶苦茶売れてる一之輔師匠のベクトルを、一之輔師匠に向かって今もっとも追随、もっとも勢いよく突き進んでいるのが宮治兄さん。そにに向かって僕も突き進みたいと思っています。僕の遠くの目標、宮治兄貴。超遠くの目標、一之輔師匠、三三師匠(※)、白酒師匠、喬太郎師匠。ってイメージです。
芸協の若手がいいねとか、「成金(※)」凄いねとか言われてますけど、宮治兄さんが引っ張っている部分て大きいと思いますよ。小痴楽兄貴(※)、松之丞兄貴(※)の力は、そりゃ大きいですけどね。宮治兄さんはもっと注目、もっと評価されていイイと感じています。これでも褒め足りないくらいですかね。でも、僕以外の誰かには成りたいとは思わないです。成りたいと思っても成れるもんでもありませんしね。
※成金:“成りあがり”を目指す話題の若手ユニット。メンバーは落語芸術協会に所属する二ツ目(前座と真打ちの間)さんたち11人。メンバーは柳亭小痴楽・昔昔亭A太郎・瀧川鯉八・桂伸三・三遊亭小笑・春風亭昇々・笑福亭羽光・桂宮治・神田松之丞・春風亭柳若・春風亭昇也。
※ 桂宮治(かつらみやじ): 2012年(平成24年)10月NHK新人演芸大賞大賞受賞。桂伸治一門。今、最も勢いのある若手落語家の一人として必ずと言ってよいほど名前が挙がる。売れっ子営業マン生活を捨て、30歳で落語家の道を志し、今や売れっ子落語家に。「成金」メンバー。
※ 柳家三三(やなぎやさんざ):2007年公開の映画「しゃべれどもしゃべれども」において落語家役で主演した国分太一(TOKIO)に稽古をつけたり、2010年より小学館ビッグコミックオリジナル連載中の落語漫画「どうらく息子」(尾瀬あきら)の落語監修を担当するなど、人間国宝・小三治の流れを汲む正統派古典の担い手。
※ 柳亭小痴楽(りゅうていこちらく):第7回くがらく出演者。平成の若手落語家ブームを牽引する代表的な一人であると同時に、5代目柳亭痴楽のDNAを受け継ぎ、昭和の落語家らしさも継承している今後目が離せない落語家の一人。「成金」メンバー。
※ 神田松之丞(かんだまつのじょう):二つ目ながらも、その芸で講談界をリードする話題の若手講談師。毒気を含んだ巧みな話術、笑いのセンス、外連味、存在感など講談界を超えてその勢いが留まるところを知らない。「成金」メンバー。
― きっと、わん丈さんには「成功のためのロードマップ」が見えているのですね。
全体を見渡して捉えて、全体像を捉えていないと落ち着かないタイプなんですよ。教科書をもらうと最後までさらっと見渡して、それを何分割化する、そんな子どもでした。全体が見えていないと嫌なタイプ。だから、一之輔師匠とか宮治兄さんとか、一定のゴール、自分の目標を設定します。全体を一度俯瞰して設定して、それに向かって進むという。そうじゃないと落ち着かない。しっくりこない。自分の位置、進捗状況、全体の中で今どこにいるかを把握しておきたい。その上で、必要・不要、やるべきこと・やるべきじゃないことなどを把握して前進したいタイプ。霧の中を手探りで進むのは嫌いなんです。全部計画的に進めたい。
チラシ掲載の文章は、インタビュー記録からの抜粋です。全文は、ここでしか読めません。ぜひ、読んで感じて知ってください。わん丈さんの素顔。そして本音。
三遊亭わん丈 独占インタビュー(6)