マリッジブルーならぬ、『二つ目ッジブルー』です。
― いよいよ半月後には二つ目です。今の心境は?
正直、マリッジブルーならぬ、『二つ目ッジブルー』です。変な不安感がありますね。披露目当日に事故に遭うんじゃなかとか、変にネガティブになったりとか。それでも周りの人たちが喜んでくれてますので。ありがたいです。
― 11月1日の鈴本が二つ目初高座です。何をかけようか、ネタは決まっていますか?
いや、まだ全然です。やっても10席ですかね。
※ 編集部では、実際、11月1日の初高座を聞きにお邪魔しました。しっかりとした見事な「真田小僧」でした。
― 二つ目昇進後のご予定は? くがらく以外にも落語会のオファーがたくさん来ているでしょうし、二つ目になると、勉強会を始める方も多いと思います。いかがですか。そのような計画はありますか。
はい、ありがたいことに、何人かのお席亭に声をかけていただいてまして、赤坂と鶴川でそれぞれ…という予定です。師匠からも「勉強会、いっぱいやりなさい」と仰ってくれていますので。できるだけたくさんやりたいと思います。
それとは別に、僕は二つ目に上がったらやりたいと思ってたことがあります。
― なんでしょう。
沖縄にいるおばあちゃんに会いに行きたいんです。しばらく、会っていないので。おばあちゃんの中では、二つ目昇進=「笑点」に出演!すごいね!みたいになっちゃってるそうなので(笑)。そこは、そうじゃないよと。誤解も解きに行かないと。それに、二つ目に上がっても、しばらく、仕事がないと思うので(苦笑)、その時に、えいやで沖縄行きたいなと。仕事があれば別ですけどね(苦笑)。
それでも僕は春風一刀になりたかった。
― 「春風一刀」の由来、誕生について教えてください。すごく素敵な良い名前だと思います。
ありがとうございます。由来については、うちの師匠(一朝)が二つ目に上がるときの話です。大師匠(5代目柳朝)と一緒に、稲荷町の師匠(8代目正蔵=林家彦六)のところに二つ目昇進の挨拶に行きました。
その時に、稲荷町から「一朝はどうだ?」とススメられたみたいです。また、「先代の一朝は三遊一朝って名乗ってたから、そっちも春風亭じゃなく、『春風一朝』ってのはどうだ?」と提案されたみたいです。まあ、でも、結局、大師匠に反対されて、「春風亭一朝」になったんですが。
このような経緯があったので、うちの師匠は「別に春風亭じゃなくてもいいよ、春風(はるかぜ)でもいいよ」と仰ってくださいました。なら「春風」で行こうと。なんか面白そうじゃないですか。で、下の名前ですよね。「春風朝太郎」という案ももちろんありました。ありましたが、自分の中で「一刀(いっとう)」ってのはどうかな、という考えがあったんです。で、師匠にお伺いをたてまして、OKをいただきました。
以前、師匠に「刀剣博物館の場所を調べてくれ」と言われたことがあります。師匠が刀好きだとその時初めて知ったんですね。それで「刀」の字を使おうと思いつきました。「いっちょう」と「いっとう」で、音も似てるじゃないですか。それで、です。画数が二画というのも姓名判断的に良かったんです。
兄弟子たちからは「なんだ、その刀ってのは?」と。「いや、これは師匠が刀好きでして」「いや、そんなことはない/そんな事実は今まで知らなかった/20年以上、師匠のそばにいるが(刀が好きだなんて)一度も聞いたことがない/嘘をつくな」とか、散々言われたんですが(笑)、本当なんですよ~!!
さらには。まぁ、その反応が返ってくることは予想していましたが。「せっかく、師匠(の前座時代)と同じ朝太郎(という素晴らしい名前)をもらったのに、それを捨てるなんて、どういうことだ!」みたいなことも散々言われました(笑)
※ 刀剣博物館:日本刀を保存・公開し、 日本刀文化の普及のため、日本美術刀剣保存協会の付属施設として昭和43年に開館。平成29年3月31日をもって代々木での博物館展示は終了し、現在、移設中。平成30年1月19日から両国にて展示再開予定。
― 入船亭辰のこさんは「入舟辰乃助」さんになりましたし、春風亭朝太郎さんは「春風一刀」さんに。最近、「亭」を外すのが、流行っているのですか?
流行ではないですが、仰る通り、辰乃助(※)兄さんのケースがあったことは、僕が「春風一刀」になることの追い風にはなりました。辰乃助兄さんの場合は、扇辰(※)師匠がお決めになったらしいですよ。柳家に柳亭(という亭号)があるように、入船亭に入舟があってもいいだろう、というお考えからだとか。その際、扇遊師匠の考えで「船」ではなく「舟」という漢字になったそうです。そっちのほうがいいだろうと。
春風一刀。「しゅんぷう・いっとう」って間違って読まれるのではないか?地方に仕事に行くと「あれ?春風亭の亭の文字が抜けてる!」と誤解されたりするのではないか。春風亭の一門だと思われないのではないか、などネガティブなことも想像しなかったわけじゃないんです。それでも僕は春風一刀になりたかったんですね。
「春風亭朝太郎。読みも字面もいい。師匠の前座時代の名前で由緒もある。なのに、なぜその名を捨てるんだ」
周囲からは色々言われました。「春風亭朝太郎。読みも字面もいい。師匠の前座時代の名前で由緒もある。なのに、なぜその名を捨てるんだ」とか。一之輔兄貴からは「なんだって?俺にくれよ、春風亭朝太郎って名前。俺が継ぎたいくらいだよ」とか(苦笑)
また、それぞれの一門にはみな「太郎」が付く方が居ます。(橘家)圓太郎師匠、(柳家)喬太郎師匠、(三遊亭)歌太郎兄さん、(春風亭)正太郎兄さん。みなさん、凄い噺家。で、やっと、一朝一門にも(朝)太郎が生まれた!と思ってたら・・・ということでもあるので(苦笑)
※ 入舟辰乃助:入船亭扇辰師匠のお弟子さん。
※ 入船亭扇遊:ザ・落語家。映画「ねぼけ」にも登場。扇遊師匠の「替り目」は、この映画のハイライト。息を飲む名人芸が観る人の心を捉えて離さない。
※ 橘家圓太郎:いま、聞いて間違いのない噺家のひとり。客席の気持ちを掴むのが上手く、明るいだけではなく、とにかく上手い。脂の乗った実力派。春風亭小朝門下。
※ 柳家喬太郎;古典も新作も自在に操る超売れっ子実力派。落語界きってのウルトラマンフリーク。2017年、自身が初主演を務め、「E-girls」の石井杏奈と親子役で共演した映画「スプリング、ハズ、カム」が公開。
※ 三遊亭歌太郎:第12回くがらく出演者。「磯の鮑」で、見事、2017(平成29)年 NHK新人落語大賞受賞。
※ 春風亭正太郎:数々の若手落語家選手権で優勝を勝ち取る実力者。春風亭正朝門下。
― それでも・・・
はい。それでも、です。僕としては覚悟の改名でもあるんです。もう辞められない、後戻りはできないぞという。「この名前で生きていく!」という僕なりのけじめ、強い意志の表明でもあるんです。いまは「なんで春風亭じゃないんですか?」状態ですけども、20年30年後には「なんで、あなたは春風という亭号じゃないんですか?」と言われるくらいの…なんて大きい夢も抱いています(笑)。
「この名前で生きていく!」という僕なりのけじめ、強い意志の表明でもあるんです。
チラシ掲載の文章は、インタビュー記録からの抜粋です。全文は、ここでしか読めません。ぜひ、読んで感じて知ってください。一刀さんの素顔。そして本音。
春風一刀 独占インタビュー(5)