<はじめに>
今回のくがらくインタビューは、これまでとちょっとだけ毛色が違います。
初の真打の師匠をお呼びして取材したというだけでなく、こみちさんが今手掛けている「こみち版落語」あるいは「こみち落語」の誕生から今日までの成長、プロセスを知りたいと強く思っていたからです。「こみち落語」の情報整理もしてみたいという試みでもあります。
「こみち落語?何それ?」という方も多いと思いますが、落語史において非常に画期的な挑戦、手法だと思っています。
「こみち落語」あるいは「こみち版落語」は女性、もっと言うと、こみちさんが演じやすいように、女性が噺をしても違和感がないストーリーに改作したものです。
男性落語家が作って演じる改作落語「~版」との大きな違いは、やはり女性(版)だという点です。アレンジのエッジが立っています。他の男性版とは違った意味でとても画期的(もちろん、とても笑えて面白い)だと感じていました。
自分らしい道(手法)を見つけ、覚悟を決めたこみちさんは凛として美しく、穏やかで、そして何より爽やかでした。晴れ晴れとしていました。
※編集部注)本来はすべてこみち師匠と書くべきでしょうが、文中ではあえて「こみちさん」と書かせていただいています。ご了承ください。
苦しんで苦しみ抜いて、もがきっぱなしの4年間。
― 前回、お話を伺ったのは2015年の12月11日でした。それから約4年経ちました。その間(かん)のお話を。
もがきっぱなしの4年間です。
― 真打に昇進され、落語面で大きく変わったこととは?
落語について一番大きく変わったことがあります。以前は3本を柱にして、と言っていました。また、自分なりの手法、方法を探していたんですよね。
3本というのは、古典を真っ直ぐやる、女性の出てくる噺、音曲噺。これを軸に、と思っていました。ところが今は、その3つが絡み合うことが大きくなってきました。
その上で、さらに去年から今年にかけての一番の大きな変化は、「噺のスポットライトの当て方を変える」という手法で腹を決めたことです。古典の世界はそのままに、江戸の風を感じさせながら、登場人物に御内儀さんが居る設定に変えるとか、登場人物の性別を男性から女性に変えて演じるといった手法です。
はい、真打になりました。寄席の出番をいただきます。そうすると、どういう状況が待っているかと言いますと、鬼のように手練れな師匠方の後に、高座に上がるケースが増えてくるわけです。
寄席で爆笑をとれるさまざまな師匠方が客席を沸かした後で出て行って、どうにかしてお客様の心を捉まえなければいけない。どうにかして存在感を示さなければいけない。お客様に喜んでもらいたい。そのためには?と、もがきに、もがいてきました。今もですけど。
なんとかしてお客様の心を掴まなければいけない。これまで通りではだめで、発想を変えないといけない。もう、もがいて、もがいて、生きてきたんです。そんな4年間。毎日必死です。毎日が勝負で、怖いです。その分、やりがいもありますが。
― とは言いつつも、こみちさんは真打昇進後から寄席で主任興行も何度か任されていますし、(他の師匠方の)寄席の香盤に顔づけされることも少なくない。寄席のお席亭や他の師匠方からの信頼があるからこそ、だと思っています。
ありがたいですね。本当にありがたいこと。でも、今はまだ若手の部類だから、と言うのもあると思うんですよね。なので、10年後・20年後も寄席の出番をいただける落語家に成長したいです。下の世代で若い女性の噺家もいます。彼女たちが真打になった後も、寄席のお席亭から声がかかる落語家でいたいですね。
― 確かに。10年前と今とでは寄席のラインナップ(顔付け)も、がらりと様変わりしていますしね。
そうでしょう。それを考えると、うちの師匠(※)はなんてすごいんだ!と改めて実感しています。メディアにそんなに出るわけでもない、古典落語をひたすらにまっすぐやって生きている。世の中の人たちは、うちの師匠の顔と名前を知らない人もいると思います。そんな師匠が寄席に出続けている。このすごさ。自分が真打になってみて、初めてわかりました。私なんて、ほんと卑怯な手ばっかり使ってますからね(笑)。でも、どんな手を使ってでも寄席に出たい、目の前のお客様を喜ばせたい。ただ、それだけです。
※ 柳亭燕路(りゅうていえんじ):七代目・柳亭燕路。早稲田大学教育学部卒。国立演芸場花形演芸会金賞、林家彦六賞など数々の授賞歴を誇るいぶし銀。寄席(の高座に上がり続けること)を大切にしている。
― こみちさんのおっしゃる「卑怯」は多分に謙遜で、つまりは正統的古典、ザ・古典落語ではないと言う意味だと思いますが、それは新作とか改作とか?
そうですね、そこに歌も入ります。浪曲、都都逸、民謡、とにかく何でもいいから、必ずしも古典落語とがっぷり四つに!ではないかもしれないけど、なんとかしてその日のお客様を喜ばせたい、満足して帰っていただきたい、その一心です。
― その中でも、こみちさん独特の落語(ネタ)があります。私たちくがらくでは、それらを称して勝手に「こみち落語」「こみち版落語」と表現してるのですが、それについては?
はい、そのように書いていただいて良いです。自分でも女性を意識して「女性版」としてのネタを増やしてきています。噺によっては、「これは女性がやるんだったら、こうしたほうがいい」とか、「こういう風にやれば次の世代、22世紀の女性の落語として残せるんじゃないかな」という願いのもとに書き換えているのもあります。
― 先日拝見したこみち版の「壺算(※)」は最高におもしろかったですね。個人的に勝手に「壺算フィーチャリング根岸律子」と呼んでますけども。あれは超画期的だと思いました。単なる改作を超えたと言いますか。
ありがとうございます。あの「壺算」は高座を聴いてくれた後輩が「面白かったです」と言ってくれることがちょこちょこあるネタでして。
― でしょうね!あれは、他の人が習いたい、教えてほしいと思う完成度ですよ。
※ 壺算:こみち版壺算は…。詳細は秘密。
頼まれたら誰にでも教えるつもりでいます。その一方で、女性の噺家には、まだ古典落語は演じるのが難しい噺が多いですから、それぞれの女性の噺家が自分なりに考えて行けば、古典落語の世界は無限に広がっていくはずだとも思っています。なので、みんなで無限の可能性を追いかけたいですね。
「こっちの方の道にすすめ(このように改作してみた)!」
「あぁ、ダメだった。ウケなかった・・・」
「諦めるな!よーし、そしたら、こっちの道はどうだ(ならば、このように変えてみたけど、どうだ)!」
という感じで、ひたすらへこたれずに挑み続けることが大切だと思っています。落語の可能性は無限ですから。ちょっと変えるとガラリとウケる話になったりしますのでね。女性が演じるのは難しいとされてきた数多の古典落語もできる限り可能性を広げていけたら、と思っています。
チラシ掲載の文章は、インタビュー記録からの抜粋です。全文は、ここでしか読めません。ぜひ、読んで感じて知ってください。こみち師匠の本音、素顔。そして「こみち落語」。
柳亭こみち 独占インタビュー(1)