「目の前のお客様を楽しませることだけを考えて、これからもやっていきたい。」
― 最近影響を受けている人などいますか?
これはですね、うちの旦那さん(※)ですね。非常に良いアドバイスをくれます。のろけるつもりはありませんが(笑)。「ああいう登場人物の出し方よりは・・・」とか、漫才師ならではの感性で良いアドバイスをくれるんですよ。“笑い”がわかってますからね、漫才師さんは。
※ こみちさんの旦那様:漫才コンビ「宮田陽・昇(みやたよう・しょう)」の昇さん。眼鏡を掛けていない方です。ツッコミ担当。
あとは、子どもたちですかね。今後育っていく中で、面白いネタを提供してくれれば、なんて思ってます。でも、子どもたちにそんなことを期待しちゃいけませんね。まっとうに育ってくれればそれでいいです。
― 普通に暮らしていたら、面白い話はたくさんできるでしょうね
そういえば今朝、長男が自分で歌を作って歌ってました。
― (笑)どんな歌ですか?
あ~さ~ごはんはぁ~♪ 味わって~♪ 食べよおぉ~♪ って
― (笑)あぁ、かわいい!!!!
次男は次男で、お兄ちゃんが大好きなので「お兄ちゃん、いっしょに暮らそう~」とか言いながら、長男に抱きつていました。
― 最高の一家ですね(笑)
大変は大変です。子育てしながら、噺を覚えて、噺を作って、高座に上がるのは前座の時のように大変で、目が回るほどです。
若い子たち(女性の二つ目)にも「子どもが欲しいなら、二つ目のうちに産んでおく方がいい。真打になってからだと、出産・子育てと、そんな時間は持てないかもしれないよ」とは言っています。
今は一週間のスケジュールの中で、パズルのように「こことここの空いた時間で稽古」という風に、どうにかして時間を作っては稽古しています。分刻みです。お客様に頂き物をすることが多いのですが、そのお礼状を書く時間もないほどです。この場を借りてお礼とお詫びを申し上げます。ただひたすらに、今日の高座、明日の高座と「今を生きる」感じで生きています。
今は忙しい。それでも、一旦高座に上がったら目の前のお客様を楽しませることだけを考えて、これからもやっていきたいと思っています。
― ということはつまり、今一番欲しいものとは…
はい、時間です。
― では、そろそろ。最後に「くがらく」においでになる、ここを読んでいる方にメッセージをお願いします。
先ほども言いましたが私自身、時間の大切さを痛感しています。それは何も私だけじゃなく、みなさんそれぞれお忙しいはずです。いろんな予定や仕事があるはずです。そんな中で、わざわざ時間を作って来ていただく。それは私にしたら奇跡(の出会い)以外の何物でもありません。本当にありがたい。そのみなさんの貴重な時間に応えられる、喜んでいただける会にしたいと思います。
~あとがき~
落語には延々と言われ続けてきた不文律のようなものがあります。「女性に落語なんか」とか、「落語の登場人物は男だから女性が演じるには難しい」とか。
ですので、「古典落語」と「女性」は水と油のようなモノ、女性にとっては到達困難な「未開拓地」だったかも知れません。
でも、古典落語を誰よりも愛するこみち師匠。古典落語を凝視しているうちに発見してしまいました。
「古典落語の世界にも、女性は住んでいたのだ」と。
だからこそ、古典落語の世界を破壊せずに、古典落語の世界に生きる女性の登場人物に光を当てることができたのでしょう。
(古典)落語。それは少なくとも“演じる女性にとってはアウェーな伝統芸能”でした。昔は。
将来の落語史において、このように語られるようになるのでは?と思うのは大げさでしょうか。
『こみち以前、こみち以後。』
古典落語を女性視点で、ここまで見事に切り拓いた初めての人。その開拓者の楽しい落語を『くがらく』でぜひ。
<特別付録>
「落語坐こみち堂Ⅷ(主催:産経新聞社)」の
パンフレットより、こみち師匠の決意
最後に、くがらくとしまして、この文章に非常に感銘を受けていると同時に、この文章に、今のこみち師匠の覚悟と決意と未来像が示されていると思いますので、許可をいただき掲載させていただきます。(実際のパンフレットでは縦書きです。本当なら縦書きの方がいいですね)
ごあいさつ
決めました。
私は決めたのです。
「なんでもやろう」と。
落語は男性によってのみ語り継がれて来た芸能であることは、皆様ご存じの通りです。
その落語が好きで好きで噺家になった訳ですけれども、噺家になって痛感したことがあります。
「古典落語は、男性が演じるようにできている」ということです。
高座に上がる度に、ネタが増える程に、それを痛感しています。
気付くの遅くない?と言わないでくださいね。
わかってたけどやってみたかったり、やってみないと本当にはわからないことって、あるでしょう?
古典落語をまっすぐ演じられる噺家を目指して噺家になった訳ですけれども、私が高座に上がり目の前のお客様が喜んで下さらなければ、高座に上がる意味はないとも思っています。
だから決めたのです。
お客様が喜んで下さるならば、どんな手も使おう、と。つまりは、「女性版」という演出です。
そんなことは、前からしているのでは?とも思われるかもしれません。
確かにそうなのですが、以前は女性版を作っていくことに迷いがありました。「この演出は、数多の偉大なる先人の気分を害するかもしれない」という。
本日、「この噺をこのように演じる日が来ると思わなかった」と自分で一番驚いている噺をやろうと思ったことから、今まで私の中にあった迷いを、一切たちきることにしました。
さてそうすることで、楽屋や評論家のうるさ方を恐れない自分とは出会えましたが、目の前のお客様に嫌われることは、依然怖いワタクシであります。
ご来場の皆様が喜んで下さることを切に願って、本日も精一杯勤めます。
ご来場誠にありがとうございます。どうぞごゆっくりお楽しみ下さいませ。
柳亭こみち
出典:令和元年10月30日 国立演芸場
落語坐こみち堂Ⅷ(主催:産経新聞社)パンフレットより
かっこいい。めちゃめちゃかっこいい…。
(インタビュー&撮影:2019年11月吉日)
取材・構成・文:三浦琢揚(株式会社ミウラ・リ・デザイン)