<はじめに>
前回から1年半。とは言え「1年半」ですから、こちらとしては、期待するほど変わっていないこともある程度想定済でした。
でも違いました。
乗り物で言うとギアを1段も2段も上げてきた感じ、発電量が2倍になった発電所みたいな感じ、扇風機であれば弱から強になった…まぁ、例えはとにかく。変化とか成長とか、そんなありていな表現では収まりきらないほどに前回と変わっていたわん丈さん。
ただでさえ“生命力の固まり”のような落語家が、さらに元気玉を集めて、パワーアップしてくがらくインタビューに帰ってきた!
「社会不適合者だなぁと感じた1年半でした(笑)」。相変わらずの精力的な活動内容に脱帽。
― 前回、お話を伺ったのは2018年の3月25日(日)でした。それから約1年半経ちました。この間で変わったことを教えてください。
自分はつくづく社会不適合者だなって痛感しました。前回(の取材時点で)『日バラ(日曜バラエティー※)』やらせてもらってましたでしょ。今だから言いますけど…(笑)
※ 日曜バラエティー:2008年4月6日から2019年3月17日まで11年間放送されたNHKのラジオ公開番組。通称「日バラ」。メイン司会は山田邦子。若手の落語家や講談師により3人組の「コロコロトリオ」が結成された。わん丈さんは、そのトリオのひとり。
― はい
あの現場が辛くて辛くて(笑)
― なんでです???
毎週毎週、同じ時間に、同じ場所に行く、というのが僕にはどうやら向いてないみたいです(笑)。憧れの NHK ですよ。それなのに。
3週目ぐらいから、しんどいんです。「やっぱ、俺にはちゃんとした仕事(決まった場所に決まった時間に出勤する仕事)は無理なんかなぁ」と。
番組はめちゃくちゃ楽しかったんですよ。山田邦子さんはやっぱり全てにおいて一流の芸人さんでしたし、NHK のスタッフさんなんかもうめちゃくちゃかっこいい。臨時ニュースが優先の番組なので、そういうニュースが入ると番組の編成が生放送中に急遽変わるわけです。そのときの迅速で正確な対応にはいつも痺れていましたね。なんならもう、この人たちの仕事を見るために行ってる感じでした(笑)。幸せな体験をさせてもらってるなぁと思っていました。なのに辛いんです(笑)
― そんな(同じ時間に、同じ場所に行くのが辛い)だとレギュラー番組持てないじゃないですか(笑)。将来、「笑点」メンバーに選ばれたらどうするんですか(笑)!
そう!そこでもう一つなんとか乗り切れた最大の要素が、日バラは公開収録だったところでした。目の前のお客様を笑わせるのはやはり最高に楽しい。「笑点」も公開収録でしょ?寄席だって真打になったら10日間連続出演が基本ですけど、目の前にお客様がいるからそれを楽しみにやれますから。真打までまだ何年もあるんで今から“同じ場所に毎日同じ時間にいくことが出来る人になれるように”がんばります(笑)。
レギュラー番組を頂くのはうれしいです。でも僕はそれ以上に、1回1回の仕事を大切にして、その結果が明日のご依頼につながりまた明後日のご依頼につながり…と結果、点が線、レギュラー的になっているような現状のほうがもっと嬉しい。
― 他に(約1年半のあいだで)変わったことは?
二ヶ月に一回やってるネタ卸し独演会の『わん丈ストリート』が大きな会場に変わりました。必要に駆られて。赤坂会館にお客様が入りきれなくなっちゃったんですよ。一度ほぼ立ち見みたいになっちゃって。NHK(新人演芸大賞)の決勝に出場したあとかな。それで「これは(立ち見ではお客さんに)申し訳ないな」という判断で。
― 会場を大きくすることに抵抗と言うか、臆するようなことは?
いや、ビビるということはありませんでした。いい風にしか思わなかったですね。座布団席からイス席になるから、お客様にとっては良いなとか。落語初心者の方が来やすくなるなとか。僕のいまのファンの方が初心者のお知り合いを紹介しやすくなるだろうなとか。演じる方としても前座の頃からずっと大きい会場での場数は踏んでいるので、特には。まぁひとつビビったとすれば、200 人のお客様にネタ卸しっていうのはやっぱりもう(苦笑)。さすがに終わった後はどっと疲労感に襲われました。しかもそのネタ卸しが 「双蝶々 (※)」の上です。もうどっと疲れました。「これからずっと 200 人を相手にネタ卸しかぁ~~」 って。
※ 双蝶々(ふたつちょうちょう):元々歌舞伎の外題からとったもの。歌舞伎の方は兄弟で善人と悪人、追う側と追われる側の別れるストーリー。落語の方は手癖が悪くて裏表のある長吉が殺人を犯して捕まるまでのストーリー。小さいころから手に負えない悪の長吉を描く「上(序)」。黒米問屋、下谷山崎町の山崎屋で小僧の定吉、番頭の権九郎を殺害して逐電するまでを描いた「中」の段、通称「権九郎殺し」。長吉の両親である長兵衛夫婦との再会を描く「下」の段、通称「雪の子別れ」の3部構成。全部通しでやると二時間にも渡る超大作。
― わん丈さんでも、さすがにそういう風に思うんですね。
はい。それは思いました。でも2 回目には慣れました。
― はっはっは。さすがの順応力(笑)。変化と言えば、今年2月に二人目のお子さんも産まれました。遅ればせながら、おめでとうございます
ありがとうございます。
― お子さんと言えば今度、お子様大歓迎の落語会を…
はい、やります。朝から晩まで一日中独演会をやる企画の中のひとつで。
― この落語会の内容(企画)も独創的ですね
二つ目になって半年ぐらいの頃から『倶楽部わん丈』という会を半年に一回ぐらいのペースでやっていまして。落語はやらない会なんです。
― はい
二つ目になってすぐのときはすごい先輩たちとの二人会が多くて、毎回自信のある武器をぶつけないといけないような毎日でした。そのまわりからの期待はうれしかったんですけど、反面、実験や勉強する場がなくなってきちゃって。勉強会で自分を磨くのも大切なことなので。
さらに、毎日仕事に追われて話題のインプットもできないぐらいだったので、マクラにできるような話題づくりも含めて、もっと自由な状況で会ができないかなと。それではじめたのが『倶楽部わん丈』という会です。ネイティヴの言葉“関西弁”で、ホワイトボードを使って喋りながら思い出したことなどをバーッと書き出して、それをマクラや噺にしていくという作業をするんです。勉強会の勉強会みたいな。少人数、10~20人位の会です。もう今はわざわざ『倶楽部わん丈』を開かなくても頭の中でその作業ができるようになったんですが、今回はその日に家族が実家に帰っていて家にいても面白くないのでやってみようかなと思い(笑)
― なるほど~(笑)
そうしたらその会場の責任者の方から「その日は朝からも予約が入ってないですから、何時に入ってもいいです」と。「朝から空いてるなら、朝から夜まで通しで借りていいですか」って。で、借り切っちゃったんです。
― それで朝から晩までの会に。
はい。以前から、ウチのかみさんを見ていてずっと思っていたことがありまして。
― なんでしょう
土日はいろんな子ども向けの催しがありますけど、平日開催ってかなり少ないんですよ。平日に遊びに連れてくところがなくて困っているお母さんて多い。これ子どもが楽しみがなくてかわいそうってことだけじゃないんですよ。むしろお母さんがずっと子どもに対してがんばらないといけないってことが問題なんですよ。だから「平日の朝と昼にやろう。子どもを連れて来られる落語会にしよう」と。
― さすが「自分からは営業はしないが、必要に迫られて色々と新しいチャレンジを始める」男!※前回のインタビュー(1)参照
でしょ、らしいでしょ(笑)。だから、2歳児から同伴OKにしました。ホントに落語を落ち着いて聞くんだったらせめて5歳くらいからじゃないと子どもが騒ぐと思うんですけど、騒ぐのもOK。2歳くらいの子を安心して、その辺りに放っといてもいい落語会、冷房の効くところで安心して。衝立(ついたて)があるのでオムツ替えもOK。これもう完全に父親目線(笑)。
― やぁ、本当素晴らしい
で、せっかく朝から借りられるんだから、もうマラソンみたいに朝から晩まで一日中合宿的に落語やろうかな~って思って(笑)。最近も思いっきり失敗覚悟でやれる落語会がなくて困ってたんです。今の僕、失敗したらモロに響いちゃうんですよ、色々と…なので、ホントに失敗してもいい会にしようと。格安の木戸銭に設定して、自分の夏合宿を公開する感じ。「許して頂ける」会をしようと。『わん丈の夏休み(※2019年8月7日に開催済)』と銘打って。
せっかく覚えたのに一度しかやってない古典ネタとかいっぱいあるので、そういうのを棚卸しする機会にもしたいなぁって。そうするとご常連の方なんかは返って喜ばれたりするかなってのもありました。
チラシ掲載の文章は、インタビュー記録からの抜粋です。全文は、ここでしか読めません。ぜひ、読んで感じて知ってください。わん丈さんの素顔。そして本音。
三遊亭わん丈 独占インタビュー(1)