― 「元犬」もそうですが、聴く度にバージョンアップしています。変えよう!と思って変えていくのですか?
いや、たまたまです。前の高座でやったことがウケたから加えて見るとか、ギャグを思いついたから入れてみるとか。その反対もあります。これまではずっとウケていた部分が次第にウケなくなってきたりもします。そこに気づくと、そこは抜いたり、変えたり。
― (落語の)ネタは定期的に手を入れて可愛がっていかないといけないものなのかも知れませんね。
ネタは生き物だという人がいますが、そういうことなんでしょうね。
― 2年前に比べて落語界は?
若いお客様が増えたように思います。「シブラク(※)」さんには定期的に呼んでいただくんですが、若いお客様が多くなってきています。「WOWOWのはやおき落語(※)を聞いて来ました」とか、ポッドキャストを聞いて知りましたとか言われることもあります。
※ シブラク:渋谷ラクゴ。会場は映画館を改装してつくられた劇場ユーロライブ。初心者も落語ファンも楽しめる落語会。キュレーター(演者選び)はサンキュータツオ(お笑い芸人、日本語学者。漫才コンビ「米粒写経」のツッコミ。オフィス北野所属)。
※ WOWOWのはやおき落語:WOWOWオンラインで平日早朝に放送中。現在はParavi(パラビ)でも視聴可能。
「歯ごたえがある噺が好きです。腕が鳴るんです。」
― 「宿屋の仇討(※)」が最近のお気に入りのようですが、どの辺りがお気に入りなのですか
やりがというか、歯ごたえがある噺だからですね。
― “歯ごたえ”、ですか?
はい。まず、基本は陽気な噺なのですが、途中シリアスな部分が入ってきます(ご新造さんを斬り殺すところ)。で、また陽気に戻って行って。ネタの振り幅が大きいんですね。笑いあり、シリアスあり。
客として聞いていた素人時代は「なんで、みんなこのネタ好きなんだろう」ってピンときませんでしたが、今になってわかったんです。「これはやってる本人たちが一番に気持ちいいネタなんだな」って。お客様を楽しませる!ということにやりがいを感じられるネタなんですね。笑い⇒シリアス、で雰囲気がぎゅっと締まります。会場もシ~ンとなる。その後ですね、醍醐味は。「よおし、こっから怒涛の巻き返しだぞ!」って腕が鳴るんですね。
― 他に笑二さんが「歯ごたえ」を感じるネタは?
いわゆる大ネタと呼ばれるものが、その部類に当たります。(持ちネタとして)持ってるところで言えば「景清(※)」「鼠穴」「不動坊(※)」。持ってないところでは「お若伊之助(※)」「文七元結(※)」「井戸の茶碗(※)」。このへんは今後覚えたいネタでもありますね。
そもそも、なんで「宿屋の仇討」を覚えたかと言いますと、志の輔(※)一門の影響です。志の輔一門では弟子が二ツ目昇進の時に決まってかけるネタが「宿屋の仇討」なんだそうです。それを知って覚えたのが2~3年前。そんときはダメダメで。お蔵入りしてました。最近の談笑一門会で、これをやることになって蔵出しして、2~3年前のとは変えて、起こし直してやってみたら、これが良かったんですね。
― 他に気にっているのは
「もう半分」でしょうか。怪談「牡丹灯籠~お札はがし(※)」をやることになって覚えて。怪談噺を、もうひとつ覚えたいなと思って探していたら「もう半分」を見つけて。
― まだ笑二さんの「もう半分」を聞いたことがないのですが、完全に怪談噺ですか?
はい。くすぐりとか余計なところは一切抜いてます。地噺(※)と言うか、一人芝居と言うか、一人語りで進行させてます。上下(かみしも)も切りません(右を向いたり左を向いたりもしない)。
― それだけで、怖そうな感じが伝わってきます。笑二さんと言えば「滑稽噺」主体かと思いきや、人情噺だけではなく、怪談噺など芸域がぐんぐん広がって来ていますね。冬はやらないのですか?
ネタだししておけばあり得ますけど、お客様のことを考えると、どうかなとは思っちゃいますよね。冬だからとかではなく。
― 来年からの毎月の独演会でぜひ、ネタだししてください。
※ 立川志の輔:しのすけ。NHKの人気番組『ためしてガッテン』(2016年4月より『ガッテン!』にリニューアル)の司会でもお馴染みの売れっ子落語家。「立川流四天王」と称されるうちの1人(志の輔・談春・志らく・談笑)。「志の輔らくご in PARCO」といった自身のライフワーク的落語会開催をはじめ、映画の主演など活躍の幅は多岐。
※ 宿屋の仇討:やどやのあだうち。河岸の悪友三人が旅の途中、宿屋に泊って大騒ぎ。ところが隣の部屋には熟睡を熱望する侍が居て…。
※ 景清:かげきよ。母親と二人暮らしの俄かめくらの木彫師・定次郎。目が見えるようなりたい一心で一日も欠かさず観音様にお参りするのだが…。
※ 不動坊:ふどうぼう。講釈師・不動坊火焔が死んだ。お滝に惚れていた男は不動坊の元女房を嫁に迎え入れるのだが…。
※ 牡丹灯籠~お札はがし:ぼたんどうろう、おふだはがし。初代三遊亭圓朝の作とされる長編落語。長編怪談噺とも言えるし長編人情噺とも言える。圓朝の「怪談牡丹灯籠」の速記本では22個の章に分かれていた。「お札はがし」はそのうちの一章。その他には「お露と新三郎」「栗橋宿」「お峰殺し」など。
※ お若伊之助:おわか・いのすけ。美人のお若が一中節(いっちゅうぶし。浄瑠璃の一つ)を習いたいと言うので、女将さんが鳶の頭の紹介で伊之助というイケメンを師匠に付けた。すると…。初代三遊亭圓朝の作とされる人情噺。「因果塚」「因果塚の由来」とも言われる。
※ 文七元結:ぶんしちもっとい。登場人物が多い大ネタ。三遊亭圓朝の創作。腕はいいが博打好きで借金のある左官の長兵衛。長兵衛の娘で、家計を助けるため(お金をこしらえるため)自ら身売りするお久。お金を失くし身投げしようとする男・文七らが織りなす一大人情噺
※ 井戸の茶碗:いどのちゃわん。人呼んで「正直清兵衛」、くず屋の清兵衛が、とある裏長屋で、千代田卜斎(ちよだ・ぼくさい)と名乗る浪人から、煤けた仏像を二百文で買ったところから物語が動き出し…。
※ 地噺:ぢばなし。基本的に落語は登場人物同士の会話で物語を進めるものであるのに対し、地噺は 会話ではなく、地の噺(背景や心理状態などの描写説明・一人語り)で物語を進める。
チラシ掲載の文章は、インタビュー記録からの抜粋です。全文は、ここでしか読めません。ぜひ、読んで感じて知ってください。笑二さんの素顔。そして本音。
立川笑二 独占インタビュー(3)
※ なお、2016年当時「第9回くがらく 立川笑二インタビュー」ページはこちらです。2年前の笑二さんと今の笑二さん。読み比べてみてください。