教わったネタに自分の色をつける、自分流に仕上げていく。
― それはそうと先日の「さがみはら(第18回さがみはら若手落語家選手権本選会)」。準優勝おめでとうございます。
ありがとうございます。今まででは一番良い感じで出来たし、楽屋も和気あいあいとしてたし、楽しい時間でした。これで勝てれば(優勝できれば)いうことなしだったのですが、こればっかりは、仕方がないですね。
これまで過去3回出場させていただいて、3回ともファイナリストなんです。決勝に残ったファイナリストは来年出れないので、次に出るとしたら再来年20回大会になりますね。ただ、その頃は時期的に、もう真打になってしまっているかもしれないので…。
― 賞レースに関しては?
もともと、まったく興味はありませんでした。100メートルや一般的なスポーツと違って、落語って競技じゃないですから。機械やルールで測定できるものじゃないですし。ただ、こんな風に言い訳して出なかっただけじゃないかって思い立ち、参加するようになりました。
大会に出れば負けて悔しい思いもしますし、いろいろ自分の実力がわかりますよ。基準がないものですけど、やっぱりわかりますよね。おもしろいかどうか、上手いかどうか。だから、評価されるってのは大事なことなんじゃないかと思いますね。
― さがみはらでは事前にファイナリストの皆さんがネタだしをします。小太郎さんは「時そば(※)」でした。なぜこのネタで勝負しようと思ったのでしょうか。
※ 時そば:冬の寒い夜。屋台に飛び込んできた一人の男。パーパー喋って蕎麦(しっぽく)を注文。お勘定の段になると…。
このネタを教わったのは、前座時代のある会です。某師匠がやってたのが、この「時そば」だったんです。袖で聴いてて、これがおもしろくておもしろくて。もう一発で(一度聞いただけで)、その凄さがわかりました。「(落語家としてやっていくためには)こんなネタをつくらなきゃいけないんだな」って。で、二つ目になってすぐ稽古をお願いしました。
この某師匠は新作もする師匠なのですが、新作派の方の凄さというものは古典を手掛けた時によくわかりますね。編集技術の妙と言うか、改作力と言うか。
私は教わった通りにやってますが、このままでは「その師匠のコピー」でしかないですからね。この「時そば」でウケても、「別に俺が凄いわけじゃない。こんな風にアレンジした、その師匠が凄いだけだ」って気持ちは常にあります。もちろん、模倣も大事なんですけどね。自分の色をどうやって付けるか、自分流に仕上げていくにはどうしたら良いか、そこは課題です。
― 他に新作派の師匠に教わったネタはありますか?
百栄(※)師匠に教わった新作落語「リアクションの家元(※)」があります。
― 以前、「とうとう独り(※)」で演ってましたね。
はい。あの噺も大好きで。教わりに行って。教わるときに師匠からは条件を出されました。「教えてもいいけど、自分でもひとつ(新作落語を)作って来てください。そしたら教えます」って。師匠の真意は「新作落語を作るという作業を、自分でもやってみるといいよ。今後のためになるよ」ということでした。
百栄師匠には親切に小噺とか含め、いろいろ教えていただきました。そうそう、それこそいま「とうとう独り」って勉強会をやってますけど、あれも百栄師匠のアドバイスのおかげです。「二つ目になったからって休んでないで、自分の会をやった方がいいよ。協会の2階を借りてでもいいんだから、定期的にちゃんとやった方がいいよ」って。
― 百栄師匠に教わる際に持参した小太郎さん作の新作ネタは、いまもお持ちですか(高座にかけることはありますか)?
いまはすっかりやらなくなっちゃったんですけど、「ネタネトイ」という題です。「やかん(※)」の根問い(※)バージョンです。噺を知らない前座が楽屋で新作派の師匠たちにネタのことを聞く噺です。「妾馬ってなんですか?」「それはメカの馬が出てくる噺だよ」「宿屋の富(※)は?」「宿屋を運営している白人男性、トミーの噺だ」みたいな。そういうしょうもないネタでした。
※ 春風亭百栄(ももえ):超独特な個性と世界を操る噺家。新作落語が有名だが、実は古典落語も好きで得意とする両刀使い。
※ リアクションの家元:リアクション芸”の伝統的な家元と、そこに通う生徒の噺。百栄師匠の創作落語。
※ とうとう独り:落語協会の2階で開催されている月に一度ペースの小太郎さんの勉強会。
※ やかん:この世に知らないものはない!と豪語する隠居に、長屋の八五郎が物の名前(ネーミング)の由来を次々とぶつける。隠居はそれにこじつけで答えていくのだが…
※ 宿屋の富:商売をする必要のないほどの大金持ちが、ある宿屋に泊まっている。宿屋の主人から富札を買うのだが…。
※ 根問い(ねどい):根本まで問いただすこと。どこまでも問いただすこと。古典落語には知ったかぶって出鱈目な情報を教える「根問いもの」なるジャンルがある。「浮世根問(うきよねどい)」、「やかん」、「千早ふる」が代表的。「単に知ったかぶりの人が登場する」だけのネタ(「転失気(てんしき)」「道灌」など)とは一線を画する。
― いまは、やらないのですね?
落語を知っている人じゃないとわからないネタですからね。たま~に、「やかん」の間にちょっとだけ入れてみたりとか、その程度です。
― トミー(カタカナ名前)で連想するのが最近おやりになっている「ベン・E・マックス」という小太郎さんの新作落語です。このネタの由来を教えてください。
今年、旅の仕事をいただいたことがきっかけです。ある温泉地に9日間ずっといて落語をやるというお仕事で、大変勉強になりました。この温泉地が大変のどかな場所でして、周りに飲み屋さんも本屋さんなどもなく、私はスマホも使ってませんし、インターネッツもできませんから(笑)。毎日空き時間にやることがない。さて、どうしよう?と。
最初は本を持って行って読書にいそしもうかと思ったんですが、はたと。「そうだ、新作をつくろう」と思いまして。紙と鉛筆さえありゃぁいいわけですから。しかも、帰京してから自分の会でできるから一石二鳥だ!と。こう思いましてね。アイデアがあっても締切がないと、なかなか…。臆病な性格なので、それまでは作るというステップに進めなかったのですが、いい機会だぞと。
「毎日稽古することが大切。ネタを増やす速度は意識的に遅くしています。」
― 昨年から「とうとう独り」の拡大版、独演会(通称「大盛り)※)を開始されました。始めてみていかがですか?
まだ1回だけなんでね(3月のインタビュー時点)。これからですけども、自分のスタイルには合ってると思いますね。
これは、私の好きなプロレスで表現するとWWE(※)のやり方なんですよね。
― と言いますと?
小さい番組(毎週のテレビ)でストーリーを続けて、積み重ねていって、季節ごとに大きな番組(有料放送)で盛り上げる、で1年に一度はさらに大きな番組で盛り上げるという。小さい番組というのが毎月、落語協会二階で繰り広げられている「とうとう独り」という勉強会、新しく始めた「とうとう独り 大盛り」が季節ごとの大きな番組(独演会)。でゆくゆくは1年に一度さらに大きな会を。そんな感じで考えています。
※ とうとう独り 大盛り:小太郎さんの定例勉強会「とうとう独り」の拡大版。第2回は2019年5月6日(日)日暮里サニーホール コンサートサロンにて。開場18:30、木戸銭:1500円(当日2000円) ご予約・お問い合わせ:050-1505-4279(留守番電話対応)
※ WWE:アメリカ合衆国のプロレス団体。ハリウッド顔負けの究極のエンターテイメント。魅力は海外ドラマさながらの劇的なストーリー展開。様々なキャラクター(ヒーローや悪玉)を持つスーパースターたちが登場人物。愛情・友情・憎悪といった感情をベースに抗争・対立を繰り広げます。
「とうとう独り」という勉強会では集客という作業は特にはしていないんです。それでいいと思ってるんですけど、真打になったらね。そういうわけにもいかないですよね。お客さんが呼べる人ってのはすごい。自分一人では無理なので、そこはいろいろな人の力をお借りして、と思っています。
― 自分で宣伝告知するとか、事務的な作業は苦手ですか
生意気ですけど、そういうことはできるだけギリギリまでしないで済ませたいなとは思いますね。「このままではいけない」ということが現実的に起きてくるんでしょうけども、そんときにならないとやらないというか。ギリギリまでやらないで済ませたいというか。まぁ、なにしろ無精者なので(笑)。年賀状をお客さんに出してやりとりするとか、名簿を作るとか、そういうことは一切やっていないので。
自分ではお客さんが変わっていくところも好きだったりするんですよね。
― ファンが大ファンへ変わっていくみたいな?
いや、そうじゃなくて。ずっと来てくれてた人が突然来なくなったりとか。急に初めてのお客さんが来てくれたりとか。「あれ、なんかあったのかな?」「何がきっかけで来てくれたのかな?」とか。そういうのも高座の上から楽しんでいます。まぁ、一番ありがたいのは「それくらい私がやってあげるわよ/俺がやってやるよ」っていうファンの人が出てくれる(自発的に手伝ってくれる方が増える)とうれしいですけどね(笑)。
― 2年前に比べて、稽古時間・場所・やり方(噺の覚え方)などに変化はありますか?
変わりありません。私の場合は時間よりも頻度だと思ってまして、「(短くてもいいから)毎日稽古する」ってことを大切にしています。隣の部屋の人は不気味に思っているかも知れませんね。急に隣から「お前さん」「なんだよ」なんて声がするわけですから(笑)。
チラシ掲載の文章は、インタビュー記録からの抜粋です。全文は、ここでしか読めません。ぜひ、読んで感じて知ってください。小太郎さんの素顔。そして本音。
柳家小太郎 独占インタビュー(2)