お前は、『どうだ、俺は(落語)上手いだろう!』という感じで落語をやっていないのがいい。(喬太郎)
― 師匠にはじめて教わったのは?
道灌、“小町の部分(※)”です。で、次に「道灌(最後まで)」。柳家は基本、道灌からみたいですね。はじめは普段使いなれない言葉だから苦労しましたね。(さん喬師匠には)「はい、よく覚えました」って褒められましたよ(笑)。たったそれだけのことなんですけど、その言葉が矢鱈とうれしかったですね。褒めるところはどこもなかったんでしょうから、覚えてきたことだけは褒めてくれて(苦笑)。
※ 小町の部分: いま一般的によく聞くことができる「道灌」は、実際は噺の後半部分。「道灌」の前半が“小町”と呼ばれる前半。「道灌」をフルで演ると意外に長い噺に。
― さん喬一門は、みなさん相当仲が良いですよね。
そうですね。前座時代、一門みんなで長崎に仕事に行ったことは未だに覚えてますね。まだ、小んぶ(※)はいない。小太郎(当時、小ぞう※)までじゃないかなぁ。原爆記念館に行ったり、みんなで宿で呑んだり騒いだり楽しかったなぁ。さん喬一門の仲が良いのは師匠の力はもちろんですが、僕が思うに、喬之助兄さん(※)の存在と力が大きいと思っています。よく、喬志郎兄さん(※)が、上と下をつなぐ要になってるねと言われることが多いのですが、それ以上に、喬之助兄さん(の力が大きい)ですね。上と下の垣根を取っ払ってくれていますから。喬之助兄さんは周りの人(芸人)をいじるのが大好きで、(いじるのが)お得意な方なので、楽屋でも打ち上げでも和んだ空気をつくってくれます。場の空気作りがとってもお上手な兄さんです。一方で、お客様をとても大切にする方でもあります。例えばお客様を交えた打ち上げなら、芸人仲間をいじっていじって、お客様を楽しませるとか。
※ 柳家小んぶ:弟弟子。さん喬一門、10番目の弟子。
※ 柳家小太郎:弟弟子。さん喬一門、9番目の弟子。
※ 柳家喬之助:兄弟子。さん喬一門、3番目の弟子。
※ 柳家喬志郎:兄弟子。さん喬一門、4番目の弟子。
― 「さん作」が、「さん若」になったときのはなしを聞かせてください。
あれは忘れもしません。ちょうど国立演芸場で、師匠がトリのとき。楽屋口に食堂がありまして、そこで師匠に紙を、名前を書いた紙を渡されたんです。その中のひとつに「さん若」ってのがあったんです。これです(と鞄から取り出す)。今日持ってきましたんで。この紙です、実物です。
破顔一笑。一生落語家。
― わ~~~!これは宝ものですね。さん喬師匠の直筆ですか?
そうです。見てください。こんなにいっぱい考えて、書いて、持ってきてくださったんです。で、どれがいい?って。
― うわ、(さん若という名前が)一番最初だ!
はい。ちょうど、この頃、偶然、伊藤若冲(じゃくちゅう)の展覧会を、上野かどこかでやってたんですよ。それで、ポスターなどを散々見ていた時期でして。(行きたいな。でも前座だし、時間もないから行けないかな)なんて思いながら過ごしてまして。いいなぁ、いい名前だなと思っていて。そんなときに、出てきた名前の一つに「さん若(さんじゃく)」でしょう?僕が今の名前を選んだのは、それも(理由として)あります。「伊藤若冲の若(じゃく)でもあるな」と。いい名前だなと。それで「師匠、これにします」と。
― 由来がわかりました。いい名前ですもんね。
いい名前でしょう?だから僕は真打になっても、この名前でいい、この名前で行きたいなと思っているんです。ただ上方に「桂三若(かつらさんじゃく)」という兄さん(同じ名前の噺家さん)がいらっしゃいまして。おなじ「さんじゃく」つながりで、何度か一緒に落語会をさせていただいたこともあります。人によっては「変えられるなら、変えたら?」と言ってくださる方もいるのですが、僕としては「さん若」に愛着もありますし…。その機会があれば、師匠にきっちり相談させていただいて、とは思っています。
― ファンとしては、その名前が変わるかも知れないタイミング(=真打昇進)を楽しみに待っています。ところで、時期ですが。
順当に進めば、再来年の春かなと。何があるかわかりませんが、一応、その心づもりもしておかないと、とは思っています。可能性の一つ、くらいに思っています。
とぼけた感じというんでしょうか。そういうのが僕のカラーなのかなぁ。わかんないなぁ(苦笑)
― お持ちのネタ数は?
80位です。少ない方ですね。覚えるのが遅いので。もっともっと覚えなきゃとは思っています。僕の場合はノートに書いて覚えます。一度書き起こしたら、録音はもう聞かなくなります。(教えてくれた方の)口調に引っ張られてしまうので。
― 似てくるものなんですね
池袋演芸場の二つ目勉強会(落語協会特選会 二ツ目勉強会のこと)って、あるじゃないですか。あの会は、お客様に交じって、さまざまな他の師匠の方々が若手の高座を観てくれていて、あとでアドバイスをくれる会なんですね。そこでよく言われるのは「お前は師匠(さん喬)にそっくりだねぇ~」って。
― うれしいでしょう
うれしいは、うれしいんですけども。同時に「いつまでも、それじゃいけない」とも言われますので。そこから、その殻を破っていけないといけませんから。それが難しいところですね。
― どうやると(その殻を)破ることができるのでしょう
やり続けると、自然と破けるだろうな、とは思っています。やり続けてやり続けて重ね続けると自然と“自分の色”に変わってくるんだろうな、と。意図的に変える人もいるでしょうけど、僕は不器用なので、自分で何度も何度も重ねて、その方法しかないだろうなと。
― いま色とおしゃいましたが、【さん若カラー】とは?
うーん、なんでしょう、何色でしょう。うーん、難しいですね…。とぼけた感じというんでしょうか。そういうのが僕のカラーなのかなぁ。わかんないなぁ(苦笑)、難しいなぁ(苦笑)
― 似たような質問ですが、持ち味は?
難しい質問が続くなぁ(苦笑)
― 上の方から言われたことなど、エピソードとか。
「お前は、『どうだ、俺は(落語)上手いだろう!』という感じで落語をやっていないのがいい」とは言われたことがあります。
― おお!それはどなたから?
(照れくさそうに)喬太郎兄さん(※)からです。言っていただきました。うれしかったなぁ。
― さすがだなぁ、喬太郎師匠は。さん喬師匠は、やはり寡黙な感じですか。
そうですね。そんなに言われることはないです。たまに、言葉づかいとかの注意は受けますね。「お前、あそこの一言が余計だよ」とか。
※ 柳家喬太郎:非凡な創作力と演出力を誇る、新作落語も古典落語のどちらも非常に高いレベルでこなす落語界の若き柱。2009年文藝春秋社のムック本「今おもしろい落語家ベスト50」では、柳家小三治、立川談春、立川志の輔などのそうそうたるメンバーを抑え、堂々の1位に輝いたほど。愛称はキョンキョン。
チラシ掲載の文章は、インタビュー記録からの抜粋です。全文は、ここでしか読めません。ぜひ、読んで感じて知ってください。さん若さんの素顔。そして本音。
柳家さん若 独占インタビュー(2)