理詰めというか、理屈っぽいというかそういう感じはありますね。
― ご自分の高座は全部録音するんですか?
全部じゃないですが、聴いてみると喋ってる感じと全然違うんですよね。まあ、聴いたところで凹むことの方が多いのですが(苦笑)。どうしても主観があるんですよね。出来が良かったと思って聞いてみると(なんだよ・・・)って感じになるし。悪かったなと思って聞くと(意外といいじゃん!)になるし。どうしても客観的に聴くということがなかなか出来ないので。難しいところです。
― 歌太郎さんを拝見してて思うのは矜持をしっかりお持ちだなと。噺家のこだわりと言いますか。そういうのは何時頃から芽生えるというか培われるというか。噺家を目指そうと思った時からですか?
元々そういうことを考えている人間なんだと思います。そこは、つまんないんだと思うんですけどね。そういうことを考えないで突き進めたらいいと思うんですけどね。理詰めというか、理屈っぽいというかそういう感じはありますね。
― 今風に言えば“めんどくさい”(笑)
そうそう、そうです(笑)。
― 昔からですか?
そうですね。
― 芸事に精進する方に“めんどくささ”って必要なんじゃないですか
職人さんもそうですけどね。独特の「ここは譲れない」っていうのあるでしょうからね。必要なのかもしれないですけど。ほどほどにしたいなとは思ってます(苦笑)。
― ここだけは譲れない・負けたくないという点は?
ちゃんとしてる、という点でしょうか。ある師匠にも言われましたけど「プロなんだからちゃんとしてなきゃダメだよ」って。
― お客様を満足させるということでしょうか
芸として、ということでしょうね。キャラクターを優先させて、わいわいがやがややるんじゃなくて、その“ちゃんとしている”という土台があっての“壊す”という感じですよね(※)。滅茶苦茶なことをやっているように見られがちなのに、実はちゃんとしているという好例が、春風亭百栄兄さん(※)。兄さんが二つ目の時なんか普通に「出来心」(※)とかやってましたけど、(この人、上手いなあ)と思いながら聞いてましたよ。ちゃんと下地があるからこそ、壊せる。喬太郎師匠(※)も目茶目茶に壊しますけど、確固たる下地があってのことですから。だから私も、その下地をなんとか作っていきたいと。
※ 編集部補足) 立川談志師匠の有名な言葉、『型のある人が型を破ることを型破りといい、型のない人が型を破ることを型無しという』にも通じる考えだと思いました。
※ 春風亭百栄:超独特な個性と世界を操る噺家。新作落語が有名だが、実は古典落語も好きで得意とする両刀使い。
※ 「出来心」:ドジでマヌケで愛すべき泥棒(初心者)の噺。サゲによっては「花色木綿」という題名にも。
※ 柳家喬太郎:古典も新作も自在に操る超売れっ子実力派。落語界きってのウルトラマンフリーク。2017年、自身が初主演を務め、「E-girls」の石井杏奈と親子役で共演した映画「スプリング、ハズ、カム」が公開。
その都度、一時的には満足します、その日限りの。でも怖がりで心配性。
― 昨今の落語ブームというか、二つ目ブームというか、何か肌で感じる部分はありますか?
今、落語会がたくさん開催されてきて、ブームだと言われていても、自分ではそのブームを手繰り寄せることは出来ないですよね、今の状態だと。だからそこらへんはもうちょっと時間かかるかなと思ってます。まあ、(この噺家稼業は)死ぬまでやるものですから。本来、落語がやりたくて落語家になってるので。売れたくて落語家になってないので。結果的に売れたら、それは有難い話ですが、売れたら売れたで、それはとても怖いことだと思うんですよね。今度は、それを維持しなきゃいけないじゃないですか。今は売れるための準備というか、それをちゃんとしておかないとなって思うんですよね。さっきも言った“下地”ですね。とはいえ、あまり頑固になり過ぎると良くないので(笑)。頑なにならずに、いろいろとやってみたいと思っています。
― 歌太郎さんは満足することがあるんですか?ものすごく高いところで戦ってらっしゃる印象が強いですし、「よっしゃー!」とか思うことあるんですか?
その都度、一時的には満足します、その日限りの。でも怖がりで心配性ですね。例えば、一回出来の良かった噺で満足してしまうと、次の時にその出来の良かった芸を自分が求めてしまうんですね。それって実は求めているレベルが下がってるってことなんですよ。満足していると、次のレベルに向かえないし、次のハードルを超えられなくなってしまうんです。自分では、それを恐れています。なので、出来の良かったものも、その日限りで忘れて、悪かったものを覚えておくようにしてます。あんまり悪かったものを覚えてい過ぎるのも良くないんですけどね。トラウマになりますからね(苦笑)。
― あくなき探求心ですね。
みんなそうだと思いますよ、芸人は。落語家は。
(柳家)三三師匠に似てると言われませんか?
― 真面目でまっすぐで頑なでストイックな部分は(柳家)三三師匠(※)に相通じる部分があるように思うのですが。言われたことはないですか? (注:あくまで編集部の主観です)
まぁ、(三三師匠に)似てるねと言われたことはあります。
― やっぱり!
※ 柳家三三:やなぎや さんざ。2007年公開の映画「しゃべれどもしゃべれども」において落語家役で主演した国分太一(TOKIO)に稽古をつけたり、2010年より小学館ビッグコミックオリジナル連載中の落語漫画「どうらく息子」(尾瀬あきら)の落語監修を担当するなど、人間国宝・小三治の流れを汲む正統派古典の担い手。
― 将来、弟子入り志願者がきたらどうしますか?
足蹴にします。他(の噺家さん)を勧めます。自分のことで精いっぱいです。
― (歌太郎さんが)大喜びするところを見てみたいですが、永遠に来ないのでしょうか。
そんなことないと思いますよ。以前、北とぴあ若手落語家競演会で大賞をいただいた時は、お客さんの反応がすごく良くて。(これで大賞取れなきゃ誰も取れないだろう)と思いながら「やかん(※)」演ってました。で結果的に大賞をいただいたんですけど、そん時ほどの出来の落語って、まだ数えるほどしかできないですね。いただいたのは4,5年前なんで、よかったものをひきずらないようにとは思います。また、すでにそれを越えているという状況でなければいけないでしょうし。
※ 「やかん」:この世に知らないものはない!と豪語する隠居に、長屋の八五郎が物の名前(ネーミング)の由来を次々とぶつける。隠居はそれにこじつけで答えていくのだが…
― 長時間のインタビュー、本当にありがとうございました。最後に、これをご覧の皆さんにメッセージをお願いできますか。
笑わせます!必ず。耐えられるものなら耐え抜いてごらんなさい(笑)
=編集部感想=
何人かの噺家さんにインタビューしてきましたが、どなたも高座での顔と取材の時の表情は違います(当然と言えば当然ですが…)。でも、一番違って見えたのは今回の歌太郎さんでした。兎に角、冷静でストイック。隙がない?隙を見せない?そんな印象を受けました。羊の皮を被った狼ならぬ、ストイックの仮面を被ったちゃんとストイック。
ご本人が「ちゃんとしてる」ことに努めているのですから、我々に“ちゃんと見える”のは至極当然のことなのでしょう。それにしても「ちゃんとしてる」のが歌太郎さんでした。
まったく上手く言えないのですが、ちゃんとしている歌太郎さんが、ちゃんと笑わせたり、ちゃんとジーンとさせるコトを“ちゃんとする”高座。それが【歌太郎落語】、【歌太郎高座】なのだ、ということだけは掴めました。
みなさん、ご自分の目で確かめに来てください。“ちゃんとしている”高座というものが、どんなものなのか。加えて、私たちは挑戦状を叩きつけられているのですから。
大いに笑わしてもらおうじゃありませんか!(笑)
歌太郎さん、独演会の前、お忙しい中、インタビューに答えて頂き、ありがとうございました。
(インタビュー&撮影:2017年1月吉日)
取材・構成・文:三浦琢揚(株式会社ミウラ・リ・デザイン)
チラシ掲載の文章は、インタビュー記録からの抜粋です。全文は、ここでしか読めません。ぜひ、読んで感じて知ってください。歌太郎さんの素顔。そして本音。
三遊亭歌太郎 独占インタビュー(5)