「柳家」の一員として、と、将来の話。
― 「柳家」は時として「柳家らしさ・柳家らしい」など言われるくらい、亭号と言いますか、一門と言いますか、古典落語、王道、本流などというイメージで語られることが多い感じがします。小はぜさんの高座からも、そのような格式と言いますか、雰囲気が漂うのですが、意識していたり、自ら縛りを設けていたりなどしていらっしゃるのでしょうか?
柳家ならではの根多が多いように思われていますが、そんなに偏ってはいないと思います。ご一緒させていただいたさまざまな師匠の高座を聞いて、その都度、お稽古をお願いすることが多いので。
― 小はぜさんは超がつくほどの真面目・誠実なお人柄なので、プレッシャーや責任を真正面からズンと受け止める方なのかなと。感受性も相当お強いのではないかなとも思いますし。
他の生き様(よう)があるなら、そっちを選びたいですけどもね。なかなかどうして…。鶴川での会(※)もそうですし、赤坂での会(※)などのような、自分1人で3席勤めますというような勉強会・独演会をたくさんこなさないと身につかないのではと思って取り組んでいます。
※ 鶴川での会:NPO法人鶴川落語会主催の定例会。「柳家小はぜ勉強会」のこと。遇数月の第二土曜日にネタおろしをしている。
※ 赤坂での会:オフィスエムズ主催の定例会。「一本釣り」。赤坂会館で開催されている
― 将来のこと(真打)を見据えて何か特別に考えたりしていることはありますか?
な~んにもないですね。ただ、真打になった時に覚えておいた方がいいよっていう感じの根多はあるので、それらは押さえておきたいなと。お馴染みの季節の根多など、多少は考えます。
― 真打になったらお名前は変えるおつもりですか?
もともと、「小はぜ」は師匠(はん治)が小三治師匠にいただいた名前です。「俺が(小三治)師匠にもらった名前だから、お前にやる」と言われて、とても有難く、気に入っているのが「小はぜ」という名です。小はぜは足袋のこはぜからです。目白の小さん師匠の時から、「小」は、前座らしい名前として柳家に多い名前です。
なので大切にしたい気持ちがありました。しかし、二ツ目に上がる際、師匠から名前は変えた方がいいと言われていました。その代わり「お前が自分で30個考えてこい」と。で30個見せたところ、「ふ~ん、お前ってこういうセンスなんだ…。なんにも引っかからねぇな。あと5個考えてこい」と。それでもいい名前がなくて、「師匠、手ぬぐいが間に合わないので小はぜで・・・」。「いや、お前、このタイミングで変えておいた方がいいよ」。「いいのねえなぁ」の繰り返しで。
そのうち、楽屋の師匠方何名かも考えてくれるようになりまして。それを全部、うちの師匠に見せたんですが、全部却下されまして。結局、「師匠(小三治師匠のこと)に相談しよう」ってことになりまして。
― で結果は?
小三治師匠が「小はぜでいいじゃねえか」と。ただ、最近、たまに言われます。「(真打に上がる時のことを考えて)なんか名前考えておけよ」と。すでにどなたかがつけた名前は責任が重いので、ちょっと…とは思っています。初めての名前のほうが気が楽かなと。
― 将来、どんな落語家になりたいですか。
寄席に出続けられる噺家になりたいです。“常に寄席に顔付けされる噺家”。寄席ってお客さんを呼べる人が顔付けされる場所です。今の僕(の実力)では相当難しいと思いますけど、目標はそこ(常に寄席に顔付けされる噺家)です。
ただ、ある師匠がおっしゃっていたのが「寄席(に顔付けされる芸人)には色々と役割があるんだよ。全員が全員、大爆笑の噺家ばかりではない。人気者は勿論、寄席ではお馴染みの人、落語の人、漫談の人、色んな枠があるから、そこのどこか1つの枠に入れればいいんじゃないの」と。なので、自分がどこに入るのか、そこに向かってやっていきたい。
何より落語。まず、声が明瞭じゃなきゃだめ。はっきり聞こえないとだめ。生き生きとしてなきゃだめ。これらは大切にしている点です。うちの師匠や小三治師匠にもよく言われてきたことなので。
― “古典に真正面から向かっている”落語家が珍しいと感じられてしまうという今の状況というか、この感覚。不思議ではありませんか?
そうなんですよね。落語の「一眼国(いちがんこく)※」ってあるじゃないですか。あの感じです。どっちが珍しいんだよ!っていう(笑)。
※ 一眼国(いちがんこく):見世物小屋のために「一つ眼(小僧)」を捕まえに行った男が辿る顛末を描いた噺
秘密の私生活。
― 落語に関する以外の情報が、あまり世の中に出ていない小はぜさんですが、敢えて秘密にというか、非公開気味に?
特に秘密にしているということもないのですが、特段お話できることもないという。ごく当たり前に過ごしているだけです。強いて挙げるなら早寝早起き。朝6時には起きてます。朝起きて、稽古したり、掃除したり。毎日、時間が足りないくらいです。部屋の掃除をしたり、洗濯したりすると、午前中なんてあっという間に過ぎています。
もともと川崎市麻生区。28歳くらいから町田市。ここで落語を知って、入門したので、引っ越してなかったら噺家になってなかったですね。落語にはまったく興味はありありませんでした。「タイガー&ドラゴン(※)」は観てましたけども。
― 若手の落語家さんには「タイガー&ドラゴン」きっかけで入門した方も少なくないはずです
当時ブームでしたしね。でも、僕は、そこがきっかけではないです。僕は単純に宮藤官九郎さんの作品の一つとして見て楽しんでいただけでした。「タイガー&ドラゴン」きっかけで、落語ではなく、着物には興味を持ちましたね。母が歌舞伎が好きで、着物を色々と持っていました。なかに親戚の叔父の着物もあったので、それを着てみたりですとか、そういうことはしていました。兄の結婚式には、僕、黒門付き(黒紋付羽織袴)を着て出席したんですよ。おばあちゃんに着付けてもらって。落語界に入りたいと思った理由のひとつに「着物を着ることができる」というのも少なからずありますね。
※ 「タイガー&ドラゴン」:TBS系で放送された日本のテレビドラマ。脚本は宮藤官九郎。主演は長瀬智也と岡田准一。落語の演目が実際のストーリーとリンクスタイルで、当時落語ブームを巻き起こした。
― 部活やサークルは?
ずっと野球をやっていました。
― 今回、くがらくは、小はぜさんにご連絡するのに一苦労しました。他の方と違って、SNSもやられていないですし。(小はぜさんにオファーする場合は)どうやって連絡するのが…
落語会の終わりにお話を頂くといったことが多いと思います。あとは兄さん方からの紹介です。
― こんなにオファーするのが大変な方なのに、協会の(小はぜさんの)ページを見ると今後の開催予定がぎっしり。すごいですよね。
そんなことはないと思います。まとまって載っているので多く見えるのだと思います。よーく見るとそんなに多くないと思います。
― SNSを始めたり、ホームページをもったりなどのご予定は?
今のところはありません。ないですね。「SNSで(情報)拡散してください」とお願いされることもありますが、「すみません。SNS でやってないので...」って申し訳ない気持ちになります。その分チラシで宣伝です。
昔、CD屋さんに「メンバー募集」の紙が貼ってあって、それでメンバーが集まったりとかしたじゃないですか。あと、ジャケ買い(※)とか。良いものは少ない情報でも、ちゃんと伝わるものだと思っています。落語協会の自分のページと「東京かわら版(※)」とか。これくらいに情報が載っていれば十分かなと思っています。
※ ジャケ買い:レコード、CD、本などのメディア商品を内容を全く知らない状態で、店頭などで見かけたパッケージデザインから好印象を受けたということを動機として購入すること
※ 東京かわら版:日本で唯一の演芸専門誌。創刊50年。落語・講談・浪曲・漫才・マジック・太神楽・紙切り・コントなど、寄席演芸とお笑いに関する情報が、コンパクトな誌面にぎっしりと詰まっています。
― 「くがらく」においでになるお客様に向けてメッセージをお願いいたします。
初めまして!ですね(笑)。逆に、なぜ次回、僕なのか伺いたいくらいです。
― 「五十歩百歩(※)」で(久しぶりに)小はぜさんの高座を拝見したからですね。「加賀の千代」。それこそ、全くまくらなしで、さっと噺に入っていかれましたよね。とても格好よかったです。
そうだったんですか。あの日は、何をやろうかと迷って(下記五席の中で)一番短い噺だったので楽屋でみんなに「手抜きだ!手抜きだ!」って責められていたんですよ(笑)。
※ 五十歩百歩:小田急線読売ランド前駅『棕櫚亭』で定期開催されている落語会
柳亭市若 「三題噺~忘れ物(手紙、鱗、別班)」
2023.12.16の「五十歩百歩」
柳亭市若 「風邪の神送り」
柳家圭花 「荒茶」
春風亭朝之助 「不動坊」
―お仲入り―
柳家小はぜ 「加賀の千代」
春風一刀 「天災」
※ 柳亭市若(りゅうてい いちわか) :四代目柳亭市馬(りゅうてい いちば)門下の二ツ目
※ 柳家圭花 (やなぎや けいか):柳家花緑(やなぎや かろく)門下の二ツ目
※ 春風亭朝之助(しゅんぷうてい ちょうのすけ) :春風亭一朝(しゅんぷうてい いっちょう)門下。2024年9月下席、柳家花ごめ、古今亭志ん松、古今亭始とともに真打昇進し、「春風亭梅朝(ばいちょう)」に改名予定
※ 春風一刀(はるかぜ いっとう) :春風亭一朝門下の二ツ目。第14回くがらくに出演。
※ 風邪の神送り(かぜのかみおくり):町内に悪性の風邪が流行したので、町の若い衆が「風邪の神送り(「風邪の神」を追いやる行事)」をやろうと提案するが…
※ 荒茶(あらちゃ):秀吉の死後、名だたる戦国武将が集まって濃茶を回し飲みをすることに。ところが誰もその作法を知らないので…。別名「荒大名の茶の湯」
※ 不動坊(ふどうぼう):独身の吉兵衛に家主が縁談を持ちかける。相手は長屋の裏に住んでいる未亡人・お滝。元の旦那は講釈師・不動坊火焔なのだが…
※ 加賀の千代(かがのちよ):大晦日。貧乏で能天気な甚兵衛はツケ払いが残っているがお金がない。女房はご隠居に10円を借りてきてと甚兵衛に命令を。ところが…
※ 天災(てんさい):隠居の所へ短気で喧嘩っ早い八五郎が「離縁状を書いてくれ」と飛び込んでくる。呆れた隠居は…
― 「落語界の求道者」、のような風情も感じます
いやいやいや。そんなことはないです。大丈夫かなぁ、くがらく…(笑)。今までになく大人しい人が来たって思われないかなぁ(笑)。先日、福岡に行った際は「今日お招きしたのはマニアックな落語家さんです」ってご紹介いただいて(笑)。そんなにマニアックじゃないと思いますよ~!って(笑)。
あとがき
表現は難しいですが、非常に「柳家らしい噺家さん」と言いますか、派手さや外連味(けれんみ)はないが、何とも言い表せない凛としたスタイル、風格、風味、柔和な笑顔の底に流れるしっとりとした笑い、噺家としての確固とした強い意志というか、一本の筋、志のようなものを感じる落語家さん、それが小はぜさん。
落語界には、同じ坊主刈りで人気の方・上手い方が何名もいらっしゃいますが、どの方ともはっきり違う。将来も非常に楽しみな噺家さんです。少しでも、小はぜさんの人となり、人間味、落語観などがわかっていただければと思います。
(インタビュー&撮影:2024年2月吉日)
取材・構成・文:三浦琢揚
(株式会社ミウラ・リ・デザイン)
チラシ掲載の文章は、インタビュー記録からの抜粋です。全文は、ここでしか読めません。ぜひ、読んで感じて知ってください。小はぜさんの本音、素顔。そして落語観。
柳家小はぜ 独占インタビュー(3)