「お前が黒紋付でおれが浴衣。これじゃどっちが師匠かわかんなくなっちゃうよ」

― 昔から黒がお好きなんですか?

はい、好きです。黒紋付も好きですし。五代目小さん師匠が黒紋付のイメージでもありますし。

― 黒紋付と言えば、志う歌師匠(※)に噺を教わった際、着物をもらったそうですが?

小ふねが稽古の度に黒紋付でくる。 なんなんだ。それはおかしいだろ。稽古だぞ。 いや、ないんです。他に着物が。 というからわかったじゃあうちに来いと言って着物をあげた。 私が二ツ目の時に来ていた着物3枚、羽織2枚、襦袢2枚。 その上呑みすぎた。ヤツのせいだ。あー気持ち悪い。

三遊亭志う歌師匠の「X」より https://x.com/utatalou/status/1866104200368923103

「お前が黒紋付でおれが浴衣。これじゃ、どっちが師匠か、わかんなくなっちゃうよ」と言われました(笑)。「俺は長いこと稽古つけてきてるけど、黒紋付でやってきたのはお前がはじめてただ」とも(笑)

※ 三遊亭志う歌くがらく第11回出演者(当時、歌太郎)。2017年NHK新人落語大賞 大賞

― そもそも志う歌師匠に稽古をつけてもらいに行ったきっかけは?

「磯の鮑(※)」を覚えたかったんです。うちの師匠も(磯の鮑という根多を)持っているんですが、違う形のを習いたいなと思っていたところに、志う歌師匠とご一緒する機会があり、そのときに思い切ってお願いをしたということです。

※ 磯の鮑(いそのあわび):町内の若い連中が集まって留さんが女郎からもらった手紙を読んで盛り上がっていると、与太郎が入ってきて…

― 数々のエピソードを伺っていますと、小ふねさんは、振る舞いも、存在感も。唯一無二ですね。

つくってないです。自分で気がついていないけど、そうなんでしょうか。

― しょっちゅう、フラ(※)があると言われると思いますが?

確かに言われますけども。フラってずるい。みんな何が何だかわからないものに対して「フラ」って言ってるだけのような気もします。なんかうまいこと誤魔化されている感じもします。

― 有名なしくじりエピソード、業界内エピソードを持つ方も過去にも大勢いますけど、そういう方々とも一線を画した高座での面白味、おかしさが小ふねさんにはあると思っています。ただ単に、面白エピソードを持っているだけの落語家さんではないなと。

自分では、自分のしくじりエピソードを枕にできませんからね。自分のしくじりエピソードを話して笑いをとれるのは自分以外の噺家ですから。だから、身近で言えば小もん兄さんとかずるいと思いますよ。僕の話で枕には困らないと思うので。エピソード代を払ってほしいくらいです(笑)。

小もん兄さんには嫉妬しますよ。あの声で、あの落語ですからね。絶対にかなわない。でも、師匠は「お前ら二人は、両極端(で違うから)だからいいんだよ」っておっしゃってくれます。王道(の落語)は兄さんにお任せして、僕は僕なりにお客様を楽しませる高座ができればいいと思うようになりました。

※ フラ:その芸人独特の何とも言えない可笑しさ・面白みのこと。その芸人さんが纏っている目に見えない面白い空気感。真似したり学んで身に付くものではない、ある意味、天賦の才。

― ご自分では、ご自身のことを、どのような人間・どのような噺家だと思っていらっしゃいますか

自分ではすごい好青年だと思っているのですが、周りの人は、そうは見てないみたいです。

― 幼少期は?

自分では普通だと思ってましたけど、中高とずっと変な奴だといわれてましたね。挙動も様子も、みんなおかしいんでしょうね。認めたくないんですけどね。自分では、何がおかしいかわからないんですよね。

― 落語家としては

「お前は、なんか面白いな」とは、よく色々な師匠方に言われます。

― やっぱり

ただ、「お前自身は、その“面白さ”に気づいちゃいけない。気づかないまま、ずっとやれ」とも言われたことがあります。「だから、いまはとにかく、噺を覚えろ」と。「なにも考えるな。考えずに、ひらすら覚えてやれ」と。

― 深いですね

難しいんですよ。だからこそ、危ういと思うんですね、僕は。師匠方も稽古のとき、あまり何もおっしゃってくれません。何か言うと、僕のおかしさが消えると思うのか・・・。

― きっと、「(この男は)普通の型に嵌めちゃいけない」と師匠たちはわかっているのでしょうね。変に矯正するのはだめだと。

本当に難しい。何も考えずに覚えてやるのは。

― 小ふねさんのようなタイプの場合、どうなったら、“あげて”もらえる(※)のですか?「磯の鮑」のときはどうでしたか?

そう言わればそうですね。確かに、志う歌師匠は困ってましたね。「なんて言ったらいいんだろう。いや、良いと思うけど、わからない」と言われました。

稽古の前には「俺、いっぱい書くからね(気づいた点はたくさん指摘するからね)」とノートを広げておっしゃっていたんですが、いざ終わってみたら、ノートにはなんにも書いてなくて、途中からただ笑ってくれていました。「俺は面白いと思うけど、これはもう、高座にかけてみないとわからない」って。

※ あげる:高座にかけてよいと、教わった師匠からお墨付きをもらうこと。やってもいいよという許可を出すこと。

― いまおもちの根多数は?

50席くらいですかね。でも、“ニン”に合わないネタが多くて・・・。残っている(今でも演る根多)のは、与太郎系、粗忽系、失敗系ですね。そこを極めて行けば、誰にも負けない僕なりの落語が見つかるかもしれません。

今回の予選会でも「松曳き」で勝てたのが自信になりました。大きい出来事です。うれしかったです。コンクールで勝てたのが初めてでしたので。一番花のない僕が勝っちゃいましたけど。

― NHK(新人演芸大賞への応募)は?

応募届を出したことがないんです。申し込み方法がわからなくて。いつも、いつの間にか終わっちゃってて。公推協杯(全国若手落語家選手権)は他薦でしたので、向こうから「選ばれましたので、出てください」って連絡が来ましたので。

― そういえば、 "柳家"に入門したら、最初に教わる噺「道灌」を、三遍稽古(さんべんけいこ※)ならぬ十六遍稽古で習得したそうですが、いまでは得意に?

記録更新しました。僕、本当に素人状態で入門しましたからなんにも知りませんでした。三遍稽古のこともです。なので、覚えようともせずにただ普通に3回聴いてたんです。で3回目が終わったとたんに、師匠に「さぁ、やってみろ」って言われまして…。

「は?」

「は?じゃねえよ。やってみな」

「いや、すみません。覚えてません」

「馬鹿野郎!」

みたいな感じですね。

5回目くらいで師匠が、「もういいよ。録音機回せ!」ってなって(苦笑)。で、その日、録音機で録音させていただきまして、後日、それを聴きながら覚えたての「道灌」を師匠の前でやってみせたところ・・・

― ところ・・・

「お前、その道灌、誰に習ったんだ?」と言われました。その後も何べんも稽古をしていただいたのですが、結局だめで「この小さんのCDで覚えろ」って言われて、それでやっとものにしました。

― 良かったですね

良くないですね。そんときも師匠は頭かかえちゃって、こんな風に(頭を抱える仕草)。気づいた点をメモに書いて渡してくれるのが師匠の流儀なのですが、そのまま部屋を無言で出て行っちゃって…。

立ち去ったあとに残されたメモ紙を見てみたら、はしっこに小さく「?」とだけ書かれていました。

そのあと高座でやって絶句(状態にもなりましたし)もしましたし、もう(「道灌」という根多は僕にとって)トラウマですね。柳家のお家芸ともいえる「道灌」なのですが、僕にとっては思い出したくない思い出がいっぱい詰まった噺になっていますね。未だに。申し訳ない!という気持ちでいっぱいです。

※ 三遍稽古:教えてくれる師匠は、習いに来た噺家・弟子の前で三日間にわたって同じ落語を三遍演ってくれる。その際、メモはせず、ひたすら、聞いて見て覚えるという稽古のスタイル


チラシ掲載の文章は、インタビュー記録からの抜粋です。全文は、ここでしか読めません。ぜひ、読んで感じて知ってください。小ふねさんの本音、素顔。そして落語観。

柳家小ふね 独占インタビュー(1)

柳家小ふね 独占インタビュー(2)

柳家小ふね 独占インタビュー(3)

柳家小ふね 独占インタビュー(4)