「小ふねと言えば、この噺!」みたいな、代表作、十八番を作りたい

― 小ふねさんはよく枕で「部屋で稽古していると、隣の部屋の人が聞いている」みたいなお話をされますが、あれは本当ですか?

ガチです。本当です。「うるさい!」と壁ドンされたりします。

― では、「牛ほめ(※)」を稽古していたら、その隣の部屋から笑い声が聞こえてきた?というのも…

これも本当の話です。ついに笑わしてやったぜ!という気持ちになり、思わずガッツポーズを。

※ 牛ほめ:兄貴の佐兵衛が家を新築したと聞き、家の褒め方を教えて、息子の与太郎をそこに送りだす父親。ところが与太郎は…

― 噺はどうやって覚えているのですか?

以前は手書きで書き起こしていたんですが、字が汚すぎて、ノートを見返しても自分でも何を書いているかわからなくて困ったので、いまはパソコンで入力しています。

― 歩きながら、そらんじたりも?

いや、それはないですね。やはり近所のみなさんから変な目で見られたくないじゃないですか。僕がこの黒ずくめルックで、ぶつぶつ言いながら近所を歩いていたら、確実に通報されますよ。実際、僕、挙動不審に思われるみたいで、4回も職質(警察官による職務質問)受けてますからね。勘弁してほしいですよ。

あ、でも荒川の土手では歩きながら稽古することもあります。そう言えば、よく(三遊亭)兼好師匠(※)に会うんですよ。橋の真ん中くらいで。兼好師匠も稽古してるんですね。

― 兼好師匠に噺を教わったことは?

いや、まだないです。でも、今回志う歌師匠に教わった「磯の鮑」は、原形が兼好師匠の噺です。いつかは、しっかり習ってみたいですね。同じ福島県出身者なので。

※ 三遊亭兼好(けんこう):三遊亭好楽一門。兼好師匠は福島県会津若松市出身。小ふねさんは福島県福島市出身。

― 小ふねさんの仲のよい落語家さんは、どなたですか

「電撃(※)」のメンバーとは今でも仲がいいですよ。他協会ですと、兼好一門ですかね、兼太郎兄さんとか、兼矢とか。

― 以前、「電撃」というユニットを組んでましたが解散しました。それについて

僕が嫌で解散という形になりました。僕が一番香盤が上だったんですけど、僕はリーダータイプじゃないんです。その責任が重くて嫌で抜けたいと、それで解散に。グループの下で自由に無責任にやっていられるならいいんですけど、一番上は苦手なんです。だんだん居心地が悪くなってきまして。それで。

※ 電撃(でんげき):柳家小ふね、春風亭だいえい(百栄一門)、桃月庵黒酒(とうげつあん くろき。白酒一門)、三遊亭ごはんつぶ(天どん一門)、林家八楽(はちらく。紙切り。二楽師匠の子息)から成る落語会グループ。ユニットというよりは勉強会の名前

※ 三遊亭兼太郎(けんたろう)・兼矢(けんや):ともに兼好師匠の弟子

― そういえば。ますかけ線(※)、手相。いつ、誰に言われたんですか?

どこか忘れましたけど、落語会中に、高座途中で、所作で、こう手のひらを客席に向けたら、あるお客様が「あれ?ますかけ線じゃないの?」って言ったんですよ。高座中にですよ(笑)。僕は今、このますかけ線で小もん兄さんにマウントとってます(笑)

※ ますかけ線:感情線と知能線が1本の線となって手のひらを横切る手相で、「天下取りの相」とも呼ばれる。生命線と繋げると平仮名の「て」の形に見えるのが特徴

― 門前仲町の落語会「今夜は落語ナイト」では、 チラシに「400年に一度の逸材」と書かれていました。この件について。

これはもちろん、自分で言ったわけじゃないですからね。自分発信で、こんなこと言い出したら、もう相当痛いやつですよ。席亭さんの冗談が、そのまま載っただけですから。ただ、その会の開口一番で、「どうも、400年に一度の逸材です」といったらウケました。

― 小ふねさんのブログですが、スケジュール告知以外の日常を書いた文章がとてもユニークで面白くて、どれもゲラゲラ笑って読んでいます。稀にみる文才を感じるのですが、新作落語を、というお気持ちは?

まったくないです。古典落語一筋です。新作を作り出す能力がないので、古典が好き。古典を自分なりにひとつひとつものにできたらいいなと思っています。ただ、僕のブログ。(三遊亭)歌武蔵師匠のおかみさんが、僕のブログのファンだそうです。僕の落語じゃなくて、ブログだけ。

※ 三遊亭歌武蔵(うたむさし):力士から転身した噺家。三代目三遊亭圓歌一門。

― 代名詞、決めセリフみたいにお使いになっている「ありがてえ」のきっかけは?

(入船亭)扇遊師匠(※)の「浮世床(夢)(※)」に出てくるフレーズなんです。そこからです。

― 出てきますね。芝居のシーンで、半ちゃんが「ありがてえ」。

はい。それが耳にずっと残っていまして。そのフレーズが、文章の締めにも使えるし、使い勝手がいいなと。それからです。色紙にも書いています。

※ 入船亭扇遊(いりふねてい せんゆう):九代目入船亭扇橋一門。2019年紫綬褒章受章。

※ 浮世床(夢):うきよどこ。床屋の待合室で退屈を持て余している男たち。居眠りしている半ちゃんを起こすと「自慢話になるから」と遠慮しつつも、嬉々として事の顛末を語り出して……。「本」・「将棋」というパートも。

― 今後、取り組みたい、覚えてみたい噺などありますか

ひとつひとつの噺を自分のものにしたいです。そして、「小ふねと言えば、この噺!」みたいな、代表作、十八番を作りたいです。

酒系統の噺は、ものにしたいですね。師匠に「親子酒(※)」を教わったんですが、師匠が酒の所作とか上手過ぎて。僕はもうボロボロで。今はあんまりやってないですね。難しいですね。なのでいまは、若い時分にできる元気の良い噺をたくさんやりたいです。

※ 親子酒:酒好きな大旦那と若旦那の親子。大旦那は息子の酒癖が悪いことを心配して一緒に禁酒しようと話をする。しかし…

― 将来、どんな落語家になりたいですか

お客様に笑ってもらえる、楽しませることができる落語家ですね。笑っていただきたい。本当は小三治師匠(のように)になりたかったですけど無理なので。自分らしく、自分なりに。

― 小ふねさんは噺の中で「ばばあ」って言い方をしますが、ちっとも嫌な感じ、乱暴な感じに聞こえません。毒蝮三太夫さんや、(ビート)たけしさんみたいです

めちゃくちゃうれしいじゃないすか!(たけしさんについては)浅草という街、そこでの修行、生きざまが好きなんです。「捕鯨船(※)」でのかっこいい伝説とか。まじでかっこいい。真打になったら、浅草演芸ホールでトリを取りたいですね。東洋館でもやってみたいです。

※ 捕鯨船:浅草六区にある伝説の居酒屋。「浅草キッド」(ビートたけし)の歌詞にも出てくる。「お前と会った仲見世の煮込みしかないくじら屋で~」。今も多くの芸人や芸能人が訪れるという有名店

― 最後に「くがらく」においでになるお客様に向けて、メッセージをお願いいたします。

でかいことは言えません。笑っていただけるように、一生懸命にやります。

インタビューを終えて

ご自分で「人前で話すなんて自分にできるとは思っていなかった」とおっしゃっている通り、およそ、お喋りが達者で、セリフが立て板に水で、明るく元気でクラスの人気者で~、といった感じには見えないのですが、一之輔師匠のいうところの落語に必要な「持って生まれた個人の『素質』」とやらを、まさしく持っているのがこの人なのか!と確信するほどに、おかしいのが小ふねさん。

ユニークな性格で、個性的で、ユーモアが…という形容詞も陳腐で、小ふねさんの噺家としての本質を突いているとは思えず、繰り返しになりますが「なんて表現してよいかわからないが、とにかく唯一無二の、おもしろい噺家さん」としか言えません。聴いて確かめてください。

そんなおもしろい小ふねさん。その素質だけで生き抜いているのかと思えばそうではなく、「小ふねと言えば、この噺!みたいな、代表作、十八番を作りたい」ですとか、「ゆくゆくは、先代の志ん五師匠みたいになりたい」とおっしゃるのですから、将来にも大変期待大な、努力家でもあります。素質+努力の人。侮れません。

(インタビュー&撮影:2024年12月吉日)

取材・構成・文:三浦琢揚
株式会社ミウラ・リ・デザイン


チラシ掲載の文章は、インタビュー記録からの抜粋です。全文は、ここでしか読めません。ぜひ、読んで感じて知ってください。小ふねさんの本音、素顔。そして落語観。

柳家小ふね 独占インタビュー(1)

柳家小ふね 独占インタビュー(2)

柳家小ふね 独占インタビュー(3)

柳家小ふね 独占インタビュー(4)