<はじめに>

ふらがある、奇才、奇人、400年に一度の逸材など、いろいろな表現で巷の評価が高まり続ける小ふねさん。上手いこと表現できないのが、もどかしいのですが、インタビューもかなりおかしい、楽しい時間になりました。高座でのおかしみの原点、お人柄を感じていただけると幸いです。とにかく、一度、実際の高座をご体験ください。(くがらく編集部)

師匠も、今では「(僕の)笑顔がかわいい」って言ってくださるようになりました

― 落語家を目指した時期、きっかけなどを教えてください

昔から(柳家)小三治師匠が好きでした。大学時代(仙台)は、小三治師匠の独演会にも足を運んだりして、よく落語を聞いていました。大学に落研(落語研究会)はあったのですが、落研に入るまでではなかったです。人前で話すなんて自分にできるとは思っていなかったですし。

― それがいつの間に、落語家を目指すようになったのですか?

自然と大学を卒業したら上京して、落語家になりたいと思っていました。両親には反対されましたけど、卒業後は上京して、介護施設でアルバイトをしながら、落語家になるタイミングを計っていました。介護の仕事は、弟子入り前。弟子入りして、見習いの期間は浅草でバイトを掛け持ちしていました。ビートたけしさんの生きざまに憧れていたので、浅草という街で修業したいなと思っていたからです。

― 当時、小里ん師匠は、小ふねさんの弟子入り志願の際、「あんとき、お前に本当に、刺されるかと思った」とおっしゃっていました。

当時、僕は丸坊主で黒ぶち眼鏡をかけ、上下も黒。全身黒ずくめの服装でした。黒が好きなんです。その日、小里ん(※)の自宅前に行きまして、出てくるのを待っていました。そしたら、道の向こうから自転車で師匠がやってきたんです。なので、僕は「師匠!」と声をかけて道端に土下座しました。師匠は驚いて、家の前を素通りして逃げて行ってしまいました。

※ 柳家小里ん(こりん):小ふねさんの師匠。“柳家”の滑稽落語の世界を大切にしていて、浅草出身で廓噺にも造詣が深い。当代一の妙手と称される

― (笑)よっぽどびっくりしたんでしょうね

そのまま土下座状態で待っていると、自転車に乗ったままUターンして戻ってきて、「弟子入り志願なのか?」って聞いてくれたんです。

― (笑)そのまま放置されなくてよかったですね

何かを思い詰めている顔をしていたんですね。後日、会っていただいて弟子入りとなりました。あの日、僕を怖がって逃げた師匠。でもそんな師匠も、今では「(僕の)笑顔がかわいい」って言ってくださるようになりました。あの日、警察を呼びそうになったおかみさんにも、今ではかわいがっていただいています。

― なぜ、小里ん師匠に弟子入りを?

介護施設で働いているとき、小三治師匠と小里んの二人会があり、そこで初めて(小里ん)師匠を観て聴いて、かっこいいなと思っていたんです。そうしたところ、なんとその介護施設に小里んの知り合いの方(介護施設のスタッフさん)が偶然いらっしゃったんです。理由を話して、住所を教えていただき、弟子入りに向かったというわけです。

― 小里ん師匠は、小ふねさんから見てどのような落語家ですか?

師匠は、最初はめちゃくちゃ怖い人でした。次第に、師匠のやさしさに気づくようになってきました。びっくりするくらいやさしい。「お前は小里んのところにいるから、(まだ落語家を)続けていられるんだぞ」ということは、他の師匠方から幾度も言われました。とにかく懐が大きい。僕の小さな嘘とかも全部見抜いていて、それで何も言わないでいてくれる。そんな師匠です。芸もそうですし。包み込んでもらっています。僕は師匠の芸に惚れているんです。

― 小里ん師匠から指導というかアドバイスされることもあると思いますが

大きな部分でしか言われませんね。基本は「高座でお客様から学んで来い」という姿勢の師匠なので。「高座でお客様にうけたら、それが正解だ」という考えというか、スタンスです。うけなかったら、そこには何か問題があるんだから考えてみろと。

― 小里ん師匠の噺で、小ふねさんが一番お好きなのは?

(小里ん)師匠の根多で一番好きなのは「夏泥(※)」です。いまの「夏泥」の形を作ったのが、うちの師匠だと言われてまして。あそこまで噺の完成度を高めたのが師匠ですから。

※:夏泥(なつどろ):夏の方が戸締りが不用心で泥棒稼業のかき入れ時。夏の夜中に、間抜けなこそ泥が長屋の汚い家に忍び込み、中で寝ていた男に金を出せと脅すのだが…

師匠は酒の噺もいいですよ。「一人酒盛(※)」とか。旅の噺もいいですよ。「おしくら(※)」とか。

国立(演芸場)で観たとき、すげえ感動しました。

そんとき師匠に「舞台袖で観てろ」と言われて観てたんですが、腹抱えて笑っちゃいまして、国立のスタッフの人に酷く怒られました。あんときは、まだ見習い時分でしたから、素人了見だったんですよね。だから、特に面白かった、大笑いしました。「あぁ、これが落語だ。落語ってこんなに面白いんだ」ってつくづく思ったのを覚えています。

― いまはちがうのですか?

いまはもう、ちがっちゃいました。純粋に師匠の高座を楽しめなくなっちゃいました。当たり前かもしれませんが、見習い時分と違って今は二つ目です。自分もああやろう、こうやろうとか思っちゃうんですよ。(落語を純粋に楽しく聴いていた)あの頃の自分に帰りたいなぁと思うこともあります。

※ 一人酒盛(ひとりさかもり):宿替えした男。家に友達が手伝いにやって来るが、立て続けに用事を言いつける。酒を飲もうとは言うが、自分一人で飲んでいるだけで・・・

※ おしくら:「三人旅」の『発端』、『びっこ馬』『鶴屋善兵衛』 と噺が続き、この小田原の宿・『鶴屋善兵衛』の宿で起こる夜のドタバタ劇。通称「三人旅」の下。おしくらとは枕芸者・飯盛女のこと

― 先日の会でやってらした「もぐら泥(※)」も小里ん師匠から?

あの「もぐら泥」は(柳家)小八師匠からです。元を辿れば(柳家)喜多八師匠なので、さらに元を辿れば、小さん師匠ですね。

※ 柳家小八(こはち):故・柳家喜多八師匠の弟子。

※ もぐら泥:大晦日。ぶつくさ言いながら男が帳簿をつけていると、なにやら縁の下でゴソゴソと音がする。どうやら泥棒のよう・・・


チラシ掲載の文章は、インタビュー記録からの抜粋です。全文は、ここでしか読めません。ぜひ、読んで感じて知ってください。小ふねさんの本音、素顔。そして落語観。

柳家小ふね 独占インタビュー(1)

柳家小ふね 独占インタビュー(2)

柳家小ふね 独占インタビュー(3)

柳家小ふね 独占インタビュー(4)