― 今後挑戦してみたい演目とかテーマとか活動とか

そうですね、やっぱりうちの師匠も得意にしているので、上方の大ネタみたいなのはやらないといけないなと思うんですけど。「らくだ(※)」とか。

※ らくだ:もともとは上方落語の演目で、駱駝の葬礼(そうれん)と言う。個性的な登場人物が多く、場面展開も多彩で、真打の大ネタと言われている

笑福亭茶光

息子の人生で “助演男優賞”を取りたい

― 自分でネタおろしを課している分、お忙しくなりますよね

それもやっぱりありますね。今子どもが春休みなんですけど、今日もそうですけど起きている時間って(落語の稽古とか)できないんですよね僕は。今日もずっと子どもと、謎のなんか全然面白くないゲームを1時間くらいやったりして(笑)

― 家事もされるんですか

家事もします。うちの妻は漫才師(※)なんですよ。なんで、お互いが、どっちかがやれるときにやるって感じですね。

※ 茶光さんの奥様は、お笑いコンビ「マリア」の、サラマンダーゆみみさん

― ゆみみさんとの慣れそめは?

お笑いライブに出ていた頃に知り合いました。それからです。

― 「笑い」に関してアドバイスを受けたり、したりとかは?

ほぼほぼないです。よっぽど気になって、人の意見聞きたいなという時に一部分だけ、どっちの所作が分かりやすい?っていうのを聞くことありますけど、落語を見せて根多をどうしたらとか、そういうのはないです。新作を聞いてもらって どうしたらとかするのもないです。

― しないようにしていますか?

はい。ケンカになるんです。最初の頃は、その辺がお互いわかっていないから、自然な会話の流れから、そういうところに行ってしまったりしました。そしたらやっぱりムッとされたりして。(漫才コンビとして売れなかった)僕とは違って「マリア」は、これから売れていこうとしてるわけです。漫才師として売れてほしいから。

「売れずに俺は終わったけども、そっちには売れてほしい」という気持ちがある。だから、もっとこうした方がいいんじゃないかとか、思ったことを言ったりする。というのも、100%の正解じゃない。本当だったら色々意見を交わして、っていうのもいいかもしれないんですけど、その手前でケンカになったりして、芸の話の前に夫婦の仲が悪くなるのはいけないな…と思ったんで、もうやめとこうって思って、それからは(お笑いのことを言うのは)一切やめました。

― お子さんが生まれる前生まれる後で変わったことなどありますか?

子どもが生まれる前までは、お金とか、ほんまにどうでもよかった。そんなことよりも、面白いネタを作って、人に認められて、人を驚かしてとか、そんなことを考えていたんですけど、(息子が生まれてからは)仕事として捉える部分が大きくなった感じがあります。「頑張るから仕事をもらえる、だから子どもを育てることができる」という。貯金のことも考えるようになりましたし。

後輩に「茶光兄さんが(前座時代に)お子さんができた時に言ってた言葉が忘れられません」と言われて。

― なんですか?

「今までは自分の映画の(自分の人生で)主演男優賞を取りたかった。でも子どもが生まれてからは子どもの映画の(息子さんの人生における)助演男優賞を取りたい」と。このような名言を残した、こんな良いこと言ってたんだなぁと(笑)

― 漫才師時代の経験が今の活動に来ているということはありますか?

初めの頃は師匠に「お前の落語は漫才の間になっている」って言われました。振り返って思うと、漫才をずっとやり続けていたので自然と掛け合いのテンポになっていたんです。(落語の場合)それを一人でやろうとすると、古典落語の中ではせわしない。せわしないって言うのは大阪弁で、「なんか休まらん」みたいなことだと思うんですね。せかせかしてるみたいなことなのかな。

いまもツッコミはするんですけど(落語の場合は)、会話というのを前提において、あくまで会話やと。漫才師二人が揃ったわけではないって思うようにしてやっています。

しかし、自分が作る新作は、振り返ってみても漫才師の作る新作だなと思いますね。明確にボケとツッコミがいるんですよ。掛け合いになっているのが多い。

いい風に言ったらテンポがあるんですけど、悪く言ったら漫才なのかもしれないです。だから、漫才にならないようにシチュエーションを変えたり、3人目の誰かが入ってくるかストーリーにするようにはしています。ただ、「根問い(※)」系の新作なんかを作ってしまったら多分超漫才になってますね。

※ 根問い(ねどい):根掘り葉掘り聞くこと。わずらわしいまでにしつこく尋ねること。古典落語で言うと「浮世根問(うきよねどい)」「相撲根問(すもうねどい)」など

(漫才出身なので)ボケるっていうのを、はっきり出せるんですよ。つまり、「ここで笑わす」っていうのを明確に作れる。他の落語家より。だから笑いの量的にはある種、取りやすい。それはいい点ですね。反対に悪い点は、漫才色が強すぎると落語感が薄れる点。このメリットとデメリットをどうするか、そこは今後の課題でもあります。

― 難しいですね

難しいですね。ずっとやってきたことなんで、染み付いてるし、そうなっちゃうんですよね。希光兄の新作落語で「レジ・スタンス」という面白い噺があるんですが、僕から見たら、もう瞬間に「新喜劇やんか!」と(笑)。新喜劇をやってるんですよ、僕から見たら。結局、人間、やってきたものが出るんですよ。だから、こればっかりは、しゃーないなと思ってる部分もあります。

改作「つる」が大人気。「いま、それで生活費を稼いでいます」

― 先月末にノート(note)に「マイスイートホーム」って投稿を上げたじゃないですか。その中でバンクシーの「インスタ」を「キンツバ」っていうシーンが合って、個人的にはあここがめちゃめちゃツボで。

読んでくれはったんですか(笑)。ありがとうございます。

― ああいう同じボケでも、他の新作の人よりも強烈にウケる感じが、ご自分でもわかると思うんですけど

そうですね。

― コントラストが激しいというか 読んでいるだけでげらげら笑っちゃうわけじゃないですか

あのネタは最初、海か何かで寝てたら身体に落書きをされて、警察に行って、「いやあんた、これバンクシーですよ」っていうネタにしようと思ったんですけど。

― それは面白い

バンクシーに、身体に描かれることないやろと思い直して。そこからしばらく発展できなくていたんですけど、思い出が詰まった家で取り壊しのところにバンクシー、バンクシーに描かれてたらおもろいなと思って。それがあるから取り壊せないっていう風にしようと。そこから作っていってボケを足していって作ったんですよ。

― 読んだらこの量ですけど、演じるとなると何分ネタなんですか?

あれは15分くらいじゃないですか。

― じゃあ寄席でできますね

寄席にかけたことはないですけど、もうちょっと(噺を)切れば、いけます。

― 自分の考えた噺を、インターネットに発表するのは心配になりませんか?

あそこに上げてるやつは、一応自分の中に「上げる/上げない」の線引きがあって、いま一番ウケるやつは上げないです。「ちょっと鮮度落ちてるから」みたいなのをアップしてますね。

― 今30いくつ新作をお持ちで、それでもやっぱりもっと作らないといけない?

そうですね。やっぱり作らないといけないですよね

― 後輩、後番が下の方に「兄さんの新作を教えてください」と言われたことはないですか?

いや、ないですね、新作を教えてくださいはないです。古典で改作してるやつを教えてほしいと言われたことはあります。結局、教えてないんですけど。「二人癖(※)」と「つる(※)」は教えてほしいと言われたことがあります。

※ 二人癖(ににんぐせ):東京落語で言うところの「のめる」。「のめる」が口癖の男が、「つまらん」が口癖の男と賭けをする話

※ つる:鶴はなぜ「日本の名鳥」というのか、「つる」と呼ばれるようになったのか?という話

― 茶光さんの「つる」。最高におかしいですもんね

「つる」で、いま僕は学校寄席を回ってるんで(笑)。いま、あれで主な生活費を稼いでいます(笑)。旬の武器なんでね。

― あの改作はどういう時に、こうこういう風に変えようと思ったんですか?

もともと好きな噺なんですよ。「つる」。ずっとやってたんですよ、あの噺、面白くて。そのうち、「これ、どう考えても変えれるよな」と思って。どう変えようかなと思ってた時に、「つる」って言うと・・・

~ (編集部注) ここは途中省略します。ここで詳細を書いてしまうと、高座での楽しみがなくなってしまうので ~

と、まぁ、割と単純な変え方ではあるんです。

― すごいですよ、そこに気付いた人、いないんじゃないですか?!

「二人癖」もそうですね。自分が改作した中ではかなりうまいこと書いてる。で、なかなかウケるんです。うまいこと変えたなっていうのはあります。


チラシ掲載の文章は、インタビュー記録からの抜粋です。全文は、ここでしか読めません。ぜひ、読んで感じて知ってください。茶光さんの本音、素顔。そして落語観。

笑福亭茶光 独占インタビュー(1)

笑福亭茶光 独占インタビュー(2)

笑福亭茶光 独占インタビュー(3)

笑福亭茶光 独占インタビュー(4)

笑福亭茶光 独占インタビュー(5)