どっちかって言うと「古典派」です

― 一番初めて習ったのは何ですか?

師匠がまず音源をくれるんですよ。「これとこれを覚えてから楽屋入りしろ」と言われまして。それが「平林(※)」と「手紙無筆(※)」やったんですよ。普通、大阪の噺家って「東の旅(※)」から入ることが多いんですけど、僕の場合は、この2つでした。

やっぱり2つあるってことは、どっか脇(寄席以外の仕事)とか行った時に、1つ出た時に、もう1つできるとか、2つぐらいないと困る時もあるからっていう理由からだと思ってたんですけど、よくよく考えたら「手紙無筆」と「平林」が付いてるんですよ(※)。無筆と無筆で(笑)。

※ 平林:江戸落語では「ひらばやし」、上方落語では「たいらばやし」。平林さんへ届ける用事を言い使った定吉なのだが・・・

※ 手紙無筆:てがみむひつ。知ったかぶりの甚兵衛さん。知り合いの男がやって来て手紙を読んでくれと頼まれたのだが・・・

※ (噺が)つく:同じようなテーマや要素を含む噺を連続して演じること。寄席では、避けるべきルールに。

※ 無筆:むひつ。字が書けない・読めない人のこと。この系統の根多は多い。「手紙無筆」「三人無筆」「平林」「浮世床(本)」「向こう付け」「無筆の女房」など。

― すんなり覚えて、すんなりあげて(※)いただけた感じですか?

いやいや、すんなり覚えるなんてできませんでした。見るのと、実際自分がやるのとは全然違いますから。しかも、音源で覚えて「羽光(※)に見てもらえ」って言われたんです。それで最初は羽光兄に見せてるんですよ。で、その時に「ベタに顔を振りすぎている。そんなに振らんでええ」ってことを言われました。やっぱこうなっちゃうんですね(顔を極端に左右に向ける)。素人だし、わからないから。

※ (噺を)あげてもらう:教わったネタを、高座にかけてよいと教えてもらった師匠に許可・OKをもらうこと。

― 羽光さんも漫才師出身。話が合うのでは?

僕の一個上、希光兄(※)はお笑い経験がバリバリあるんです。僕と松竹芸能の時期に漫才師として被ってるくらい。羽光兄も以前は漫才師。しかも、こっち(東京)でよく会うのは羽光兄、希光兄ですね。和光兄(※)は打ち上げには来ないので、打ち上げで会う一門のほとんどはお笑い経験者って感じになっちゃいますね。だから話自体はやっぱり合います。バキバキ本寸法落語の人よりも柔軟性があるというか、会話していてもいい意味でこだわりないみたいなところはあるので、会話としては楽ですね。

※ 笑福亭羽光(うこう):鶴光一門の四番弟子。2020年NHK新人落語大賞優勝者。元お笑いグループ「爆烈Q」のメンバー。「成金」の一員

※ 笑福亭希光(きこう):鶴光一門の六番弟子。元漫才コンビ「アイムスクリーム」のメンバー。「成金」の後継ユニット、「芸協カデンツァ」の一員

※ 笑福亭和光(わこう):鶴光一門の三番弟子。

― 以前、兄弟会・二人会を亀戸でなさっていましたけど。あれはどなたの発案ですか?

あれは羽光兄です。一緒にやろうよと時々声をかけてくれるんですよ。仙台でも(二人会が)あります。年に1回ぐらいやってますね。

― 「ルート9(※)」というユニットを組むきっかけは?

あれは(昔々亭)昇がリーダーなんです。そもそも昇が同期の(三遊亭)仁馬と(春風亭)昇りんの3人と喋っていて、「成金(※)」の兄さん方みたいにグループ組んで落語会をしたい」という話になったらしくて、その3人が発案者で、他のメンバーに声をかけてくれてやっているという感じです。

※ ルート9(るーとないん):落語芸術協会の二ツ目9人で構成されたユニット。チーム 「さば弁」:春風亭弁橋(しゅんぷうてい べんきょう)|神田桜子(かんだ さくらこ)|三遊亭仁馬/「メガネちーむ」:春雨や晴太(はるさめや はれた)|三遊亭花金(さんゆうてい はなきん)|春風亭昇りん/「3(three)」:笑福亭茶光|昔昔亭昇|春風亭昇咲(しゅんぷうてい しょうさく)

※ 成金(なりきん):落語芸術協会の二ツ目11人で構成されたユニット。メンバーは柳亭小痴楽・昔昔亭A太郎・瀧川鯉八・春雨や雷太(現 桂 伸衛門)・三遊亭小笑・春風亭昇々・笑福亭羽光・桂宮治・神田松之丞(現 伯山)・春風亭柳若・春風亭昇也

― 今日もありますね

今日は厳密に言ったら「ルート9」のメンバー3人+(桂)九ノ一(※)さんが加わって4人で。「人情話とか聞かす話とか、そういうのではなく本当に笑えるだけの話をやる回をやりましょう、笑いが多い噺をやりましょう」の会です。

※ 昔々亭 昇(せきせきてい のぼる):昔昔亭桃太郎一門。二ツ目。

※ 三遊亭仁馬(さんゆうてい じんば):五代目三遊亭圓馬一門。二ツ目。

※ 春風亭昇りん(しゅんぷうてい しょうりん):春風亭昇太一門。二ツ目。

※ 桂九ノ一(かつら くのいち):桂九雀一門。

― 新作と古典と、どっちかというと?

もともとは新作がやりたくて(落語界に)入ってきたんです。最初前座の頃に古典をやって、脇とか行った時に新作をやったんです。そしたら新作の方がはっきりウケるんですよね。で、はっきりウケるからついついやっちゃうんです。ですけども、古典の中に新作の言葉が入ってくるんですよ。

最初の頃って古典が染みてないんで、ちょっとした会話のやり取りの時に不意に「ドア開けて、はよ帰れ」とか、「ドア」とか言ってしまうとかあったんですね。古典の中に似つかわしくない単語を入れてしまう瞬間があって。で、やめたんですよ。「もう新作やめよう」と思って。で、基本やめたんですよ。その頃は、どこ行っても古典やってました。

ところが、二つ目になって、漫才(師)から来てるから、なんか僕には新作落語のイメージがあるらしく、主催の方に「新作作ってますよね?新作の会があるんですけど、出れますか?」って言われまして。

せっかく来た仕事なんで断らないで、当時1~2本しか持ってなかったんですけど「やります!」って即返事して。そうしたら、新作の仕事が次々と舞い込んでくるようになったんです。だから味をしめて(笑)。いまでは新作も古典も両方やってます。

ただ、どっちかって言われたら、「一応古典派です」とは言ってます。実際、古典の方が(ネタの数が)倍ぐらいあります。

― いくつくらいですか?

100近いです。約95~6本。古典が60数本。新作が30数本。

― 師匠の古典が一番大好きですか?

僕は師匠の古典というより、師匠の語り口が好きなんです。師匠以外では(桂)枝雀師匠(※)ですね。でも、あんな風にはなれないですし、好きな人は何人もいるんですけど、明確に「この人みたいになりたい」ってのはないです。好きな師匠、他には(春風亭)昇太会長、(柳家)喬太郎師匠も好きですね。

※ 桂枝雀(かつらしじゃく):3代目桂米朝に弟子入り後、2代目桂枝雀を襲名。客を大爆笑させる芸風で、師匠の米朝と並び上方落語界を代表する人気噺家に。

※ 春風亭昇太(しゅんぷうていしょうた):落語芸術協会会長。現・『笑点』司会者。柳家喬太郎、三遊亭白鳥、林家彦いちと「SWA(創作話芸アソシエーション)」を旗揚げした

※ 柳家喬太郎(やなぎやきょうたろう):古典も新作も自在に操る超売れっ子実力派。落語界きってのウルトラマンフリーク。古典は人情噺で知られる柳家さん喬に正統派の落語を学び、新作落語では三遊亭円丈に多大なる影響を受けて今がある。同じくSWAの一員。

― 古典も新作も上手にされている方に惹かれますか?

それはやっぱりありますね。あと単純に笑いの量が多い方。「ここまで笑い取るのか!」っていう高座の師匠方は、やっぱり好きですね。

― ご自身の集大成・年に一度の独演会「ゴールデンドロップ」では(三遊亭)白鳥師匠をお呼びしていました。どういうきっかけですか?

2023年に「演芸写真家 橘蓮二プロデュース "極" Vol.13 白鳥残侠伝 ~笑って貰います~」という会がありまして、そこに僕も呼んでいただいたんです。みんなでそれぞれ白鳥師匠の新作落語をやる会です。(蝶花楼)桃花姉さんが『老人前座ばば子』、(田辺)いちか姉さんが『豆腐屋ジョニー』、で僕が『富Q』を演ったんです。それからのご縁です。で、今回は僕の会にゲストに来ていただいたという。

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※ 三遊亭白鳥(はくちょう):師匠 三遊亭円丈の異能なDNAを最も色濃く継承している二番弟子。春風亭昇太を始めとする「SWA(創作話芸アソシエーション)」の一員。常識に囚われない破天荒な新作落語で落語界を牽引する稀代のストーリーテラー。

※ 蝶花楼桃花(ちょうかろう ももか):春風亭小朝一門。伝統的に男性中心だった落語界で、女性落語家として活躍し、2022年に真打昇進。挑戦的な企画力で新しい試みにも積極的に取り組んでいる。

※ 老人前座ばば子:白鳥師匠の新作「老人前座じじ太郎」。これの主人公をヤクザの組長の未亡人・ばば子に変えたもの

※ 田辺いちか:講談師。田辺 一邑(たなべ いちゆう)一門。元女優・声優の経歴を持ち、表現力や演じ分けに優れている。

※ 豆腐屋ジョニー:スーパーの食料品たちが擬人化して繰り広げられる大騒動落語

※ 富Q:とみきゅう。変わった新作ばかり掛けるので寄席を出入り止めになり、極貧生活を送る金銀亭Q蔵の物語

― 新作を作るときに意識されている点、こだわりといったものは?

起承転結を大事にしています。物語的な噺が好きなので、ストーリーの中で何かが起きて、ここで展開が変わって、どう終わるか、ということですね。あとは「何か一つ、核となるアイデアがあるか」ですかね。1個のアイデアがあってそれを落語にしたい。お客さんが聞いていて、驚けるか、面白がれるか。


チラシ掲載の文章は、インタビュー記録からの抜粋です。全文は、ここでしか読めません。ぜひ、読んで感じて知ってください。茶光さんの本音、素顔。そして落語観。

笑福亭茶光 独占インタビュー(1)

笑福亭茶光 独占インタビュー(2)

笑福亭茶光 独占インタビュー(3)

笑福亭茶光 独占インタビュー(4)

笑福亭茶光 独占インタビュー(5)