お客さんが満足してくれることが、私自身の幸せ
― 寄席に出演するようになったきっかけは?
去年の8月、国立(演芸場)に出まして、そこで(林家)彦いち(※)師匠と(鈴々舎)馬るこ(※)師匠とご一緒させていただきました。その際、「寄席に出ない?」とおっしゃっていただいたので「出たいです!」と。それからです。彦いち師匠の一門に入れていただきました。御二方には大変お世話になっています。
― 寄席と、それまでのステージはまったく違うものですか?
全然違います。寄席は落語家さん主体で、私たちは色を添える、 彩(いろど)りを添える「色物(いろもの)※」です。
(寄席には)素晴らしい色物の先輩たちがたくさんいらっしゃいます。ゆるく、さらっと、それでいて粋で。目立ちすぎず、邪魔しない。わくわく感を残したまま舞台をさらっと盛り上げて、次の落語家さんにバトンタッチ。かっこいいですよね、色物としての生きざま。ああいうところは、ミュージシャンとは違う生きざまです。自分の時間で(お客様を)満腹にはさせないけど、ああ、いいもの観た・聴いたって感じさせる芸。すてきです。
(落語家の)師匠方には「まだまだ頑張りすぎてる」とはよく言われます。寄席っぽくないと(笑)。もっと力を抜いてできないの?って。そこが難しいところですね。いまは、寄席用の根多を考えては、彦いち師匠や馬るこ師匠に観ていただいて…って感じです。
※ 林家彦いち(はやしや ひこいち):初代林家木久蔵(現 木久扇)一門。北とぴあ落語大賞やNHK新人演芸大賞落語部門大賞を受賞。主に新作落語を得意演目とし、春風亭昇太、柳家喬太郎、三遊亭白鳥と「SWA(創作話芸アソシエーション)」を旗揚げするなど
※ 鈴々舎馬るこ(れいれいしゃ まるこ):五代目鈴々舎馬風の弟子。NHK新人演芸大賞で落語部門大賞などを受賞の他、フジロックフェスティバルで落語を演じるなども。
※ 色物(いろもの):寄席における落語以外の芸のこと。音曲・声色・奇術・曲芸・踊りなど。寄席などの番組表で、黒字(落語家は黒い文字)でなく、色文字で書かれている出演者なので、色物と呼ばれるようになったと言われる。
― 「漫謡」と表現していますよね
私は「漫謡(まんよう)」と表現しています。漫談が楽しい話、漫画が楽しい絵、ということだとしたら、漫謡は「楽しい唄」っていう感じですね。それを薦めてくれたのが、寒空はだか(※)さんです。あははと笑うというよりも、楽しくなった、幸せな気分になった、というのが私の「漫謡」かなと思います。はだかさんは直属の師匠のような存在です。なにかあると相談していますし、はだかさんみたいに、みんなを幸せにできる人になりたいと思っています。
※ 寒空はだか(さむぞら はだか):漫談家、俳優。ボーイズバラエティ協会員
― 奈々福さんとの会(※)でおっしゃってましたが、出番前はいつも4時間前からおなかを空腹にしておくそうですね
はい、私はそうしています。奈々福さんは真逆(食べてからステージに臨む)だったので、人それぞれで面白いですよね。
奈々福さんとやっている二人会『浅草浪漫(※)』は、浪曲+漫謡という意味で『浪漫』なんです。奈々福さんが考えてくださいました。とてもすてきですよね♪ 奈々福さんのお声は、声が目に観えるみたいなものすごい迫力があります。ご一緒させていただいて毎回勉強させてもらっています。
※ 玉川奈々福(たまがわ ななふく):浪曲師・曲師(きょくし。浪曲における三味線奏者のこと)。さまざまな浪曲イベントをプロデュースする他、自作の新作浪曲や、長編浪曲も手掛け、他ジャンルの芸能・音楽との交流も多岐にわたって行う。海外公演の経験も。第11回伊丹十三賞受賞。
※ 浅草浪漫:玉川奈々福&遠峰あこのユニット「浅草浪漫」によるファンタジック歌謡ショー。選曲もさることながら、毎回驚かされるおふたりの衣装にも注目。2024年3月には、7回目の公演を行った。
― 好きな言葉は?
いつも「ありがとうございます」という気持ちを大切にしています。感謝の気持ちは大切だと思っています。毎朝、起きたら「ありがとうございます」ってお仏壇(おじいちゃんとおばあちゃん)と神棚に手を合わせます。
― 今後のビジョンなどは?
特別、そういったものはありませんが、1人でも多くの人に唄を聴いてもらえる人になりたいと思っています。自分ができることを、できる限りのちからでやっていきたい。
コロナの時期(の活動自粛)でわかったんですけどね、誰も聴いてくれない・聴かせる予定もない状況だと、アコーディオンに触る気持ちすら湧いてこなかったんですよね。そのときにわかったのは、どなかたに聴いてもらえるから(アーティストとして)活動できているんだなって。
自分が唄うモチベーションは、その目の前のお客さんを楽しませたいという気持ち。目の前に、どなたかが居てくれないとだめで。で、その方が満足してくれることが、なにより私自身の幸せになっているんだなって。
私のことを見つけてくれて、わざわざ足を運んでくれる人に対する感謝。ありがたいことだなと。
― 次から次へとお仕事が
私、自分を売り込んだりとか、とても苦手なんです。一切できない。よく、ここまでやってこれてますね、私(笑)。
― 人を惹きつける魅力を持っていらっしゃるからなのでは
どうなんでしょうね。待っているだけのような状態なのに、色々な方に紹介とか、声をかけていただいて。ただ、そういう(紹介していただいた方・紹介された)方々を喜ばせたいとは思いますね。そういう期待にしっかり応えたいと一つひとつのお仕事をやってきたからかなとは思います。
多分(私自身が)完璧じゃないから、みなさんが助けによって来てくださるんじゃないかな(笑)。「もっと、こうしたら、もっと良くなるよ」って感じで。
― 「くがらく」においでになる皆さんへメッセージをお願いします
笑ったり唄ったりすることって、(暮らしていく上で)大切なことだと思います。身近な場所で、こういう会が催されるのは、とっても素晴らしいことだと思います。 また、生で演芸を観るということも、とても素晴らしいことです。ネットを通じて観るのとは大違いです。ぜひ、そういった素晴らしさを知ってほしいし、広げてもらいたいです。ご家族そろって、お友達を誘って観に来てください。
インタビューを終えて
今回のインタビューは、「遠峰あこ」生誕の地であり、活動拠点ともいえる日ノ出町・桜木町駅が最寄りの居酒屋「横浜すきずき」さんで行わせていただきました。
「流し」という職業時代のお話が出てきましたが、まさに、あこさんのこれまでが「流れるがまま」に人生を泳いできた!という印象を受けました。あこさん曰く「周りの人に助けられてきた」ということですが、そこは、見方を変えれば「周りの人を惹きつけ、ファンにしてきた」とも言えるのではと思います。人徳ゆえに、わらしべ長者のように、いつの間にかどんどん、活動領域を広げていくという。なかなかに、魅力的な “流されっぷり”。
芯を持ちながらも、飄々と、やさしく、しなやかに。そんな印象のあこさんが、取材中におっしゃった言葉が頭から離れません。
「みんなが聴いて唄って、手拍子して、お酒がすすむ。そういう楽しさを」
くがらくでは、お酒は出ませんが、きっと相当楽しい気分に包まれるはずです。
(インタビュー&撮影:2024年6月吉日)
取材・構成・文:三浦琢揚
(株式会社ミウラ・リ・デザイン)
チラシ掲載の文章は、インタビュー記録からの抜粋です。全文は、ここでしか読めません。ぜひ、読んで感じて知ってください。あこさんの本音、素顔。そして落語観。
遠峰あこ 独占インタビュー(3)